
法務省が発表している「犯罪白書」について見てみると、増加の一途を辿っていた刑法犯の件数が2003年に減少に転じ、2013年には1981年以来32年ぶりに200万件を下回りました。
さすが“治安大国”とも呼ばれる日本…と思いきや、今度は別の問題が発生していきています。それが、高齢者による犯罪です。
そもそも高齢化率が上昇しているわけですから、高齢者による犯罪に注目が集まるのも仕方のないことなのかもしれませんが、いずれにせよ犯罪は起こらない・起こさないに越したことはないですよね。
そこで今回は、「2014年度犯罪白書」のデータをもとに、高齢者の犯罪について、その件数の推移や犯罪の種類、高齢者による犯罪を防止する方法などについて検証していきたいと思います。
20・30代よりも高齢者に犯罪者が多い、現代が抱える大きな問題とは?

上記のグラフで犯罪件数の推移をご覧いただければわかる通り、高齢者による犯罪の数自体はここ5年ほどは横ばい傾向にあります。
とはいえ、1994年から比べると20年後の2013年には検挙人員の数が4倍にも増加しており、社会的な問題であることに疑いはありません。
また、20歳代や30歳代の件数よりも多いことも一目瞭然で、全体の犯罪件数における高齢者の割合は年々、大きいものになってきています。
「犯罪」とひとことで言っても、その内容は様々ありますが、高齢者では際立って目立つ特徴があります。それが、窃盗が多いということ。

2013年における高齢者の一般刑法犯検挙人員の罪名別の構成比を男女別に見てみると、横領や暴行、詐欺といった犯罪に比べて窃盗がずば抜けて多く、高齢者全体の約6割にも上っています。
さらに男女別に分けると、女性では約9割が窃盗となっており、中でも万引きによって検挙された人が8割以上。
その数を見ても、2013年で高齢者による窃盗の件数は3万4000件を超えており、1日あたり約95件もの高齢者窃盗犯が検挙されているという計算になります。

盗んだものはと言えば、7割近くが食料品などの低額なものが多いそう。2012年のデータになりますが、盗んだものの平均の価格は、少年が5800円、成年(20~64歳)が1万4300円に比べて、65歳以上の高齢者ではたったの2600円でした。
殺人や傷害などより重大とは言えないまでも、犯罪であることに変わりはありません。
「ダメなものはダメ」と高齢者自身も理解はしているはずですが、では一体、どうして高齢者が犯罪の道に走ってしまうのでしょうか? 具体的なケースから、その理由について迫ってみました。
ケース① 刑務所に戻りたい
ある例では、もともと刑務所に服役していた高齢者が仮釈放処分を受けて出所したものの、年金がなく、収入も見込めないために所持金を使い果たし、路上生活に疲れて…ということが。
コンビニエンスストアでたった1本の缶コーヒーを盗んだ罪で、また刑務所に逆戻り…となってしまったのです。
確かに、刑務所に入れば雨風をしのげる住まい(?)があり、3食をしっかり摂ることが でき、社会に必要とされる作業が用意されています。
言わば“安定的”な生活が約束されている刑務所という場所が、貧困にあえぐ高齢者の目に理想的な場所として映ったとしても不思議ではありません。
下記のデータが示すように、こうして犯罪を繰り返して刑務所との往復を繰り返す高齢者は決して少なくありません。

1994年からの推移を見ていくと、ここ20年間、一貫して刑務所に服役する高齢者の数は増加。
2013年では1994年の約5倍もの数の高齢者が刑務所に入っていました。
また、そのうち実に7割以上に2回以上の入所経験があるということで、再犯、再入所率がいかに高くなっているかがわかります。
もちろんのことですが、刑務所は高齢者のための住まいなどでは決してありません。貧困を理由にして入所する場所ではありませんし、国民による尊い税金によって運営されている場所です。
そんなことも、高齢者自身で理解していることだとは思いますが、それでも貧困という現実を目の前にして「背に腹は代えられない」ということなのでしょうか。
ケース② 年金暮らしの不安から
「年金だけで生活していけないわけではないけれど、将来について漠然と不安になって…」。
高齢者による犯罪が増加している背景には、年金をはじめとする社会保障制度に対する不安があるという説もあるほど。
ケース①のように年金だけで生活できない経済的困窮者はもちろんのこと、現状、年金生活が成立している人でも、将来への不安に駆り立てられて犯罪を犯してしまう人も多いようです。
下の表をご覧いただいてもわかる通り、国民年金だけでは月々5万円程度。厚生年金を受け取れる人でも15万円前後…という金額では、少しずつ貯蓄を切り崩していくことへの不安があるのも否めないでしょう。
| 厚生年金 | 国民年金 | |
|---|---|---|
| 2007年度 | 161,059円 | 53,602円 |
| 2008年度 | 158,806円 | 53,992円 |
| 2009年度 | 156,692円 | 54,320円 |
| 2010年度 | 153,344円 | 54,596円 |
| 2011年度 | 152,396円 | 54,682円 |
警視庁の調査では、高齢者の万引き犯罪の被害のうち、7割以上が食料品だったと言います。主にスーパーやコンビニエンスストアなどにおける食料品の万引被害は後を絶たないのです。
ケース③ 「誰かにかまって欲しい」という孤独から
またある例では、貧困というわけでもなく、ごく一般的な社会生活を送ることができていた高齢者が、淋しさを紛らわすために犯罪に走ったということが。両親が亡くなり、子どももおらず孤独な毎日を過ごすうちに、「誰かに注目して欲しい」と思うようになったのです。
このように孤独を感じて毎日を送っている高齢者も、決して少なくありません。2010年に行われた国勢調査によると、65歳以上の高齢者のうち10人に1人の男性、そして5人に1人の女性が一人暮らしをしているとのことです。

ケース①のように、経済的な困窮状態は確かに高齢者を万引き犯罪に駆り立てる一因ですが、とある調査によると、万引きをした高齢者の約半数は、普通、または裕福な経済状態にあるというデータもあります。
例えば一人暮らしだったり、また子どもや親族などと疎遠になったりすると、社会からの疎外感を感じてしまうのも無理はありません。
犯罪心理学の中にある「犯罪機会論」でも、「犯罪を起こす要因は個々の性質だけでなく、犯罪を起こしやすくする環境や状況もある」とされています。
とはいえ、心にぽっかりと空いた穴を埋めるように、万引きという犯罪を起こすことで社会とのつながりを実感するというのは、あまりに虚しい話ではないでしょうか。
高齢者の犯罪防止策は物理的・心理的の二面から
先日2月6日、東京都商店街振興組合連合会から高齢者の万引きへの対応に関する調査結果が発表されました。

この結果を見ると、商店の関係者が「物理的」に高齢者の犯罪を防止するための取り組みに注力していることがわかります。
例えば防犯カメラやミラーを設置したり、商品の陳列の仕方を工夫したり。
万引き防止装置を導入したり、警備員を雇ったりする店も多くあるでしょう。
ただし、こうした対策はあくまで対症療法でしかないということには留意すべき。万引きという犯罪を“取り締まる”のももちろん大事ですが、それよりももっと大切なのは、そもそも高齢者が万引きをしないようにする社会環境の整備なのではないでしょうか?
少子高齢化や核家族化などの影響もあり、一人暮らしの高齢者が増えていくのは、社会の流れ上仕方のないことです。それでも、高齢者が孤立して孤独を感じないようにして、犯罪を未然に防ぐための社会環境の整備が求められているのです。

例えば公的な取り組みでは、滋賀県で介護や障がい者支援など多方にわたる全県的なネットワークが始まっています。これは、高齢者に支援が必要になったという情報をネットワーク間で共有し、ケアマネージャーや福祉・介護施設などがサポートにあたるというもの。
また、福島県の老人クラブ連合会でも、約700人の会員が高齢者の万引き防止に関する啓蒙活動を行っているそうです。
こうした取り組みは非常に意義のあるものですし、実際に福島県では、増え続けていた万引き犯罪が昨年は約2割も減少したそうです。
しかし、そんなに大げさに考えなくても、例えば道ですれ違った時にあいさつをかわしたり、近所づきあいを大切にしたりと、日常生活のちょっとした場面で“思いやり”を持って接するだけで、環境は変わっていくはずです。
高齢者の万引き防止のために、高齢者を孤立させず、孤独を感じさせないようにする社会体制の整備。そのためには、一人ひとりが地域の高齢者をさりげなくても心理的にサポートしてあげるような意識が必要なのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定