超高齢社会の大きな論点ともいえる人生の終末期、どのようなケアを選択し、どこで人生の最期を迎えたいと思いますか?終末期ケアは人間の尊厳に関わる、人生の終わりの選択肢。その終末期医療についてのガイドラインが2018年3月に改定されることとなりました。
超高齢社会の大きな課題、終末期医療
終末期医療のガイドラインが11年ぶりの改定
厚生労働省の調査は「人生の最期を住み慣れた自宅で」と希望する高齢者がとても多いことを明らかにしています。
国や厚労省も、できれば高齢者に在宅で、なおかつ地域で暮らして欲しいという考えがあり、実際に地域包括ケアシステムでそのような方針を定めているのです。
今回はこの方針をさらに強化する狙いで、終末期ガイドラインが改定されることになります。
ポイントは、高齢者自身が自分の思いを「文書で残す」こと。
死が近づくにつれて考えが変わることもありますし、認知症を患い、自分の意志を上手に周囲へ伝えられなくなる可能性もあります。
そのため、まだ元気でいられる間に、終末期の意思決定の内容について文書の形で残しておくことが求められるようになります。ガイドラインは2018年3月に改定される見通しで、それまでに詳細が決められます。
2007年にも終末期医療ガイドラインは作成されましたが、その際は自宅での最期をという手順がきちんと明記されていませんでした。
今回の改定ではその点を重視し、見直しを行います。
また、先日開催された専門家会議では“独居高齢者”の増加が議題に。
看取る人や話し合う相手がいない人を想定し、家族以外でも信頼できる人を治療方針の決定に迎え入れるという意見も出たようです。
終末期ケアのカギとなるACP(アドバンス・ケア・プランニング)の認知度は低い
そんな終末期ケアに関して、患者を中心として、医療や介護の関係者が治療方針を話し合うことをACP(アドバンス・ケア・プランニング)と呼びます。
医療的なケアを続けても、それ以上の回復の見通しが立たなくなった場合にどのような選択をしていくか、またどこで暮らしたいか、などを早い段階で話し合うのです。

しかし、その認知度はまだまだ低いのが現状。
介護職員のうち51.5%が「ACPを知らない」と答え、さらに42.6%が「聞いたことはあるが、知っているわけではない」という状態であるということを厚生労働省が調査結果として発表しています。
合計すると、実に94.1%もの介護職員がACPについて無知であることが浮き彫りとなっているのです。
終末期においては、およそ70%もの患者が自身での意思決定が不可能とも言われている中、ACPの認知度向上は“人生の最期”において大きな課題でしょう。
延命よりも、いかに充実した生活を送るかの”ターミナルケア”
ターミナルケアとはなにか
終末期医療は「ターミナルケア」と呼ばれることもありますが、ターミナルとはまさに「終末期」の意。人生の終わりに、治療を継続して延命するか、最期の時間を充実させて暮らすかという、QOL(生活の質)を重視した言葉として定着しています。
基本的に、ターミナルケアは延命よりも、苦痛を取り除いて穏やかに暮らし、充実した生活を優先させることを目的とした概念ですが、これと似た言葉に「緩和ケア」があり、緩和ケアはターミナルケアのひとつとされています。
主にがん患者の痛みをやわらげ、QOLを改善する緩和ケアはターミナルケアに比べて治療の要素が強く、反対にターミナルケアはどちらかというと残った時間を有意義に使ってもらおうという点に主眼を置いています。
認知症患者の場合はどこからが“ターミナルなのか”ははっきりとせず、定義が難しいという問題もありますが、一般的には「寝たきりとなり、自分で食事ができなくなったあたり」をターミナルと考えることが多くなっているようです。
ターミナルケアの形は多様

冒頭で、住み慣れた自宅での最期を希望している高齢者が多いとお伝えしましたが、ここでは実際のデータを確認してみましょう。
「今の病気が治る見込みがない場合、最期を迎えたい場所はどこですか」という質問に対し、54.6%が「自宅」と答えています(厚生労働省の調査より)。
在宅においては、往診や外来に出向くことによってケアが行われますが、これは訪問看護ステーションなどと連携しています。
往診ができるようになった診療所も増えていることから、訪問介護の事業所や居宅介護支援の事業所などと連携しながら、チームでターミナルケアを行っていくわけです。
介護施設におけるターミナルケアも、基本的な考え方は自宅で過ごす場合と同様ですが、終の棲家として入居するケースが多いため、納得がいくようなターミナルケアが受けられる場所を探すことは重要です。
また、容態の変化で苦しまないよう、できるケアをすべて行うことを希望する場合には、病院という選択肢もあるでしょう。
どのような場所であれ、納得の行く人生の終わ迎えられるよう、本人と家族、そして関係者間の連携はこれからの時代、より重要となっていきますね。
終末期には延命治療をどう捉えるかの問題がある
延命治療は必要ですか?
ここまでみてきた終末期のケアですが、どのような治療を行うかについては人それぞれの考え方があります。

現代の高齢者は、延命治療についていったいどう思っているのか。
内閣府の“高齢者の健康に関する意識調査”によると、「病気が治る見込みがなく、死期が近づいた場合に延命治療を受けたいかどうか」という質問に対しては、91%もの人が「自然にまかせて、延命をしないでほしい」と答えているのです。
この事実から、高齢者がむやみに延命を希望し、医療費を圧迫しているというイメージは間違いであることがわかります。
医療の側からみても、心肺蘇生や人工呼吸器、胃ろうといった生命維持のための治療を行わなかったことから違法になったというケースも過去にあり、終末期医療がいかにデリケートかつ難しい問題であるかは明白です。
海外の延命治療はどうなっているのか
このように、当然シビアな問題となる終末期医療に関して、世界の現状はというと、特に医療や福祉が発達した北欧諸国では、医療費を削らざるを得ないところまで福祉の費用が膨らんでいます。
介護の仕組みがとても効率化されていて効果的なことから、ターミナルケアの段階になった高齢者、とりわけ認知症の高齢者は、すぐに施設に入るという傾向が費用増大の要因となっているようです。
また一般に、日本では多くみられる寝たきり患者は、海外においては少数だということをご存知の方もいるかもしれません。
これは海外の医療が優れているというより、そのような方針を取らない「医療や介護の仕組み上の結果」と言えるでしょう。
つまり、延命を行って長生きさせることを目指すよりも、寝たきりになる前に死へと向かっていくことに重きを置いているのです。
今回は3月にガイドラインが改定されることをきっかけとして、人生の最期という大きなテーマ、ターミナルケアについてみてきました。
一人ひとりが幸せに生き、納得できる最期を迎えるためには、本人の意思を中心に、家族が協力して医療・介護のスタッフが支援しながら方針を決める必要があります。
穏やかな終末期を過ごすために、意思疎通ができる段階からターミナルケアについて話し合っていくのは不可欠。
また現場には、まだまだ知られていないACPについての理解を深め、万全の体勢で利用者を迎える準備が求められています。
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2020年9月7日 制定