介護事業所の指定取り消し・停止処分・過去最多に
指定取り消し・停止処分に至った理由は「不正請求」がトップ
3月6日、厚労省は政策説明会の場で、2016年度中に何らかの不正行為によって指定の取り消し・停止処分を受けた介護施設、介護事業所の数が244件と過去最多になったことを明らかにしました。

処分の内訳をみると「指定取り消し」が141件で、「指定の効力停止(新規利用者の受け入れを認可しない)」が103件。
サービス種類別では、訪問介護が84件、居宅介護支援が38件、通所介護が34件、グループホームが13件となり、訪問介護が全体の約3割を占める結果となっています。
「指定取り消し」に至った理由としては、全体の59.6%を占める「不正請求」が最も深刻です。
「指定の効力停止」に至った理由においても「不正請求」が40.8%を占めて最多となり、「指定取り消し」「指定の効力停止」のどちらにおいても、「不正請求」に起因する処分が看過できない状況となっています。
厚労省側は政策説明会の中で、事業者の不正は利用者に不利益を与えるだけでなく、介護保険制度全体の信頼を損なうことになると指摘。疑わしいケースに対する迅速な監査の実施と、不正に対する厳正な対処の必要性を改めて強調しました。
介護事業所の指定取り消し・停止処分が過去最多となった背景
「指定取り消し」「指定の効力停止」の処分を受けた介護施設・介護事業所数が過去最多となった理由の一つとして、施設・事業所数が年々増え続けていることが前提として挙げられます。
2015~2016年にかけての1年間だけでも、訪問介護事業所は190施設、居宅介護支援事業所は559施設、通所介護事業所は695施設(地域密着型通所介護事業所と合計)、グループホームでは86施設が増加。
施設・事業所数が年を追って増加する中、それに比例して処分を受ける施設・事業所も増えているという現状があるわけです。
また、施設・事業所数が増え続ける背景には、高齢者人口の急速な増加があります。
「2017年版高齢社会白書」によれば、介護保険制度が始まった2000年当時の65歳以上の人口は2,201万人でしたが、その後年々右肩上がりで増え続け、2016年には3,459万人まで増加しました。
それに伴って要介護(要支援)認定者数も増加、2000年当時は256万人でしたが、2015年には620万人にも上っています(「2015年度介護保険事業報告」より)。
こうした高齢者人口の増加と、それに伴う介護サービスへの需要増が施設・事業所数の増加をもたらしているわけです。
不正請求とはどのような行為なのか
現在の介護報酬・保険制度の仕組みがカギとなる

「指定取り消し」「指定の効力停止」の処分を受ける理由として最も多かった「不正請求」。
事実とは異なるサービス実施記録を作りあげ、それに基づいて介護報酬を請求するという行為です。
なぜこのような不正請求をする介護施設・介護事業所が増えているのでしょうか。
その背景には、介護保険制度・介護報酬における構造的な問題が大きく影響しているようです。
介護保険制度のもとで、介護保険サービスを提供する施設・事業所の収入(売上)は利用者の自己負担(現行制度では収入全体の1~2割)と介護報酬(介護サービスの内容によって額が規定。
収入全体の8~9割)によって確定します。
そして介護報酬の財源は、40歳以上の国民に支払い義務がある「介護保険料」と「税金」から成り立っているわけです。
ただ既にみたように、現在の日本は高齢者の人口増とそれに伴う要介護(要支援)認定者数の増加が続き、介護サービスの利用者が急速に増えつつあります。
そうした中、介護保険料と税金からなる介護報酬の財源を介護サービス利用者数の増加にフィットさせていけるかというと…やはりそれは難しいこと。
介護保険料を過度に増額することは国民への大きな負担増を招くと同時に、税金の使途として高齢者福祉・介護給付費に回せる額は限られているという現実があるわけです。
不正請求と事業者の懐事情
介護報酬の財源が限られているという制約のもとで、介護サービスの利用者数がどんどん増えているわけですから、各施設・事業所が介護サービス利用者1人あたりから得られる収入(国が定める介護報酬)は減少せざるを得なくなってしまいます。
むろん国としては、混乱を避けるために一気に報酬額を減額することはないでしょうが、少なくとも今後「急激に増やしていく」といったことを期待するのは難しい状況なわけです。
これは各施設・事業所からすると望ましくない状況。施設・事業所の運営にはさまざまな費用がかかり、それらの費用は収入の8~9割を占める介護報酬によってまかなわれるのは上述した通りです。
特にポイントになるのは人件費で、介護報酬の増額が期待できないとなると、職員の給料・待遇の改善もままならず、人手不足が続く中で人材確保もうまく進みません。
そうした状況の中、介護報酬を「不正請求」し、少しでも多く収入を得て費用・人件費に充てようとする施設・事業所が出てきてしまうのです。
では、介護事業所が不正請求などせずに安定性の高い運営を行っていくにはどうすればよいでしょうか。その方法の1つが、人件費などの費用を抑えつつ、介護報酬を得られる介護サービスを効率的に提供すること、つまり生産性の向上を図ることだと考えられています。
”介護の生産性”向上に向けた取り組み
膨大な事務作業を削減する
介護職員の仕事は利用者への介護サービスの提供が本分ではありますが、さまざまな書類の作成もまた、頻繁に行わないといけない作業です。

介護報酬を得るためには実施したサービスの記録作業が必要になり、利用者によるモニタリング(サービス内容への評価)やケアチェック(サービス内容における問題の有無の確認)に関する書類も別途作成しなければいけません。
しかし現状、多くの介護事業所においてこうした書類は手書きで作成されている」という実態があるのです。
そのため、書類作成に多くの時間が必要となり、残業を余儀なくされるというケースも非常に多いのです。
また、産業界や大学、官公庁はもちろん、リサーチ機関などからのアンケート依頼も書類作業を増やす一因になっています。
もちろん、それをデータとして公開し、現在の介護業界の状況を世間に問うのはとても大事なことですが、中には前に答えた内容と同じ質問をする業者もいるようです。
こうした書類作業に追われる中では生産性の向上はなかなか望めません。ただ、国・厚労省もこうした問題の重要性に気づき、解決に向けた施策を展開しつつあるようです。
国はITを使って生産性向上を狙っている
現在、書類作成を手書きで作る無駄を省いて生産性を向上させるべく、国や厚労省は介護分野への「ICT(情報伝達技術)」の導入を進めています。
その取り組みの1つが2018年4月から取り組まれる「介護報酬の請求を原則インターネットによる請求、もしくはCD-Rによる請求に限る」という施策。
所定の用紙に手書きで書くことに比べれば、作業量が減少するのは間違いないでしょう。
また、ケアマネージャーやホームヘルパー、医師や看護師といった職種間の情報の共有化や、介護記録が電子データ化されることによる業務の合理化・効率化なども、ICT化の導入によって進められているようです。
今回は介護施設・介護事業所の指定取り消し・停止処分が過去最多となったニュースを取り上げ、その背景にある不正請求の実態とその原因について考察してきました。
不正請求をする施設・事業所が増えている背景には介護報酬を巡る構造的な要因もありますが、生産性を向上させることで問題に対していくらか対応できるとも考えられます。
施設・事業所における不正請求のさらなる実態把握については、今後の調査を待つことにしましょう。
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2020年9月7日 制定