日本看護協会、厚労省に要望書を提出
介護施設で働く看護師への処遇改善を要望
4月27日、公益社団法人日本看護協会は、厚労省老健局に対して2019年度の予算編成に関する要望書を提出しました。
要望書には「訪問看護提供体制の推進」「介護施設・在宅領域における利用者の安全と尊厳を守るための体制整備」に加えて、「介護施設等で働く看護職員の処遇の改善」の項目が盛り込まれ、介護施設などで勤務する看護師の待遇が病院勤務の看護師と同等になるよう、賃金の改善を求める内容となっています。
同協会は要望書の中で、介護施設などで勤務する看護師は、病院で働く看護師よりもどの年代においても賃金水準が低く、また平均年齢が高いにもかかわらず病院で働く看護師よりも平均賃金額が低いことを指摘。

さらに介護施設などでは、主任相当職や管理職と非管理職との間の賃金処遇の差が少ないことから、病院から介護領域への労働移動が進みにくいとしています。
その上で要望書は、政府が昨年12月に閣議決定をした「新しい政策パッケージ」について言及。
勤続10年以上となる介護福祉士に月額平均8万円相当の処遇改善を行い、そのために公費1,000億円程度を充てることが「新しい政策パッケージ」の中に明記されているのですが、これに対し要望書は、この1,000億円を「介護施設などで働く勤続10年以上の看護師」の処遇改善にも活用するよう要求しています。
介護施設で働いている看護職員の仕事内容は
病院が病気・怪我の治療を行うことを目的としているのに対して、介護施設・介護事業所は利用者の生活を支援することが目的。
介護施設には病院ほど医療設備がないので、利用者が急病などの場合に、医師の判断に従って病院への搬送をサポートするのが介護施設に勤める看護師の役割になります。
また、介護士や生活相談員、ケアマネージャーなど他職種と関わる時間が増えるというのも、病院勤務とは異なる点です。
施設によっては介護士と共に食事や入浴の介助を行わねばならない時もあり、病院で働いていた看護師が初めて介護領域の仕事に就くと、いろいろと戸惑う部分も多いと言います。
介護領域で働くメリットとしては、入居者一人一人と長期に渡って向き合えるので家族のようなつながりができる、看護師としてのキャリアの幅を広げられる(介護分野に対応)、といった点が挙げられるでしょう。
一方、デメリットとしては、力仕事などの看護以外の仕事が多い、高度な医療行為に携われなくなるので医療技術の進歩についていけなくなる、などがありますが、やはり大きな難点は賃金が安いということ。
先の図表で見た通り、介護施設は病院よりも平均賃金においてかなり見劣りしているのが現状です。
看護職員の処遇改善を求めた理由
看護職員は人手不足
三菱総合研究所の「介護領域における看護職員の確保に関する調査研究事業報告書」におけるアンケート調査(2013年公表、介護サービスを提供する施設・事業所1,287が対象)によると、看護職員の充足状況に関する質問に対して、「大いに不足」「不足」「やや不足」と答えた施設・事業所は全体の50.6%に上っています。

こうした人手不足の影響により、現場における仕事量も増えつつあります。
日本医療労働組合連合会(医労連)の「看護職員の労働実態調査」(2017年公表、看護師33,402人が対象)によれば、「1年前に比べた仕事量」について尋ねたところ、「大幅に増えた」「若干増えた」の回答を合わせた割合は58.0%に及びました(福祉施設勤務者を含む看護師全体のデータ)。
介護施設における看護師の負担量が増加してくると、賃金が安いということも影響し、高くなってくるのが離職率です。
日本看護協会の「特別養護老人ホーム・介護老人保健施設における看護職員実態調査」によると、2014年度における常勤看護師の離職率は、特養で21.5%、老健で16.4%。
2014年度の全産業における離職率は15.5%ですので、特養、老健ともそれより高い値になっています。
なぜ看護師は退職してしまうのか
先に挙げた医労連の「看護職員の労働実態調査」によると、「仕事を辞めたいと思いますか」との質問に対して、「いつも思う」「ときどき思う」の回答を合わせると74.9%に上りました。看護師の約7割が「辞めたい」と思っている実態が明らかとなっているのです。
このうち「いつも思う」と回答した人の時間外労働の時間をみると、月あたりの時間外労働が60~70時間の人は42.7%、70時間以上の人は37.7%にも及び、時間外労働時間が増えるほど、辞めたいと「いつも思う」人の割合が増加しています。
また、休憩時間の取得率も影響しており、「いつも思う」と答えた人のうち、休憩時間が「全く取れていない」人の割合は「日勤」で41.1%、「深夜勤務」で41.2%、「2交代夜勤」で50.5%にも及んでいました。
看護師が働く現場は、人手不足が深刻化する中で、夜勤の「前」「後」の時間外労働が常態化や時間外労働への不払いの横行、さらに年次有給休暇・休憩時間の取得率も低下するなど、労働環境が過酷化しつつあるのが現状。
看護師に対するパワハラ、セクハラの問題なども頻発しており、こうした問題が、退職を希望する看護師を増加させていると言えるでしょう。
勤続10年の処遇改善は正しい政策なのか
今回の要望にあった処遇改善の背景は?
前述した通り、日本看護協会が今回出した要望書の中では、政府の「新しい政策パッケージ」における「勤続10年以上の介護福祉士に対して、月額平均8万円相当の処遇改善」の政策に言及し、そのために充てられる公費1,000億円を、介護施設などで働く勤続10年以上の看護師の処遇改善にも充ててほしい、という要望が含まれていました。
ではこの介護福祉士に対する処遇改善措置が行われた背景にはどのような事情があったのでしょうか。
その背景のひとつが介護福祉士の減少です。
高齢化が急速に進み、介護人材の不足状況も深刻化する中、介護福祉士国家試験を受験した人は2015年度では16万919人いましたが、翌2016年度には7万9,913人にまで激減。
制度改定により介護福祉士国家試験の受験資格を得るのが難しくなったことが主な要因ですが、少しでも多くの介護福祉士を確保する必要性に迫られる状況となったのです(なお2017年度には受験者数9万2,654人とやや改善)。
そして何より大きな背景としてあるのが、給料の安さ。
厚労省の賃金構造基本統計調査によれば介護職員の平均月給は約23万円で、全産業平均より10万円ほど低いのが現状です。
待遇の悪さは離職率の高さや採用の困難さにつながり、介護福祉士を目指す若者がますます減っていく原因にもなります。
こうした事態を改善すべく、政府は公費1,000億円を充てて処遇改善を図ったわけです。
勤続10年制度の問題点
しかしこの勤続10年の介護福祉士への処遇改善策には問題点も指摘されています。その最たるものが、そもそも勤続10年に達している介護職員が少ないということです。
厚労省によれば、平均勤続年数はホームヘルパーで5.6年、福祉施設介護員で5.5年。勤続10年以上の人の処遇を改善するといっても、それに該当する介護福祉士自体がそれほど多くないと考えられるわけです。

この状況は看護師にも当てはまり、看護師の平均勤続年数は7.4年。
勤続年数が10年に届いていない人が非常に多く、仮に要望書の通りの処遇改善が通ったとしても、その恩恵を受けられない看護師は相当数に上ると推測されます。
お金の面だけでなく、先に挙げたような労働環境も改善しなければ、看護師の人材確保にはつながりにくいかもしれません。
今回は、日本看護協会が厚労省に出した2019年度の要望書に関する問題を取り上げ、介護施設で働く看護師の置かれている現状について考えてきました。
高齢化が進む中、介護施設で働く看護師の重要性は増しており、その待遇を巡る議論は、今後とも続いていきそうです。
みんなのコメント
ニックネームをご登録いただければニックネームの表示になります。
投稿を行った場合、
ガイドラインに同意したものとみなします。
みんなのコメント 90件
投稿ガイドライン
コミュニティおよびコメント欄は、コミュニティや記事を介してユーザーが自分の意見を述べたり、ユーザー同士で議論することで、見識を深めることを目的としています。トピックスやコメントは誰でも自由に投稿・閲覧することができますが、ルールや目的に沿わない投稿については削除される場合もあります。利用目的をよく理解し、ルールを守ってご活用ください。
書き込まれたコメントは当社の判断により、違法行為につながる投稿や公序良俗に反する投稿、差別や人権侵害などを助長する投稿については即座に排除されたり、表示を保留されたりすることがあります。また、いわゆる「荒らし」に相当すると判断された投稿についても削除される場合があります。なお、コメントシステムの仕様や機能は、ユーザーに事前に通知することなく、裁量により変更されたり、中断または停止されることがあります。なお、削除理由については当社は開示する義務を一切負いません。
ユーザーが投稿したコメントに関する著作権は、投稿を行ったユーザーに帰属します。なお、コメントが投稿されたことをもって、ユーザーは当社に対して、投稿したコメントを当社が日本の国内外で無償かつ非独占的に利用する権利を期限の定めなく許諾(第三者へ許諾する権利を含みます)することに同意されたものとします。また、ユーザーは、当社および当社の指定する第三者に対し、投稿したコメントについて著作者人格権を行使しないことに同意されたものとします。
当社が必要と判断した場合には、ユーザーの承諾なしに本ガイドラインを変更することができるものとします。
以下のメールアドレスにお問い合わせください。
info@minnanokaigo.com
当社はユーザー間もしくはユーザーと第三者間とのトラブル、およびその他の損害について一切の責任を負いません。
2020年9月7日 制定