厚労省、人生の最期を決める事前指示書についての調査結果を公表
事前指示書の作成に賛成する人は66%
厚労省は2018年2月、一般国民に対して行った「終末期医療に関する意識調査」(2017年12月実施)の結果を公表しました。

それによると、自分の終末期に備えてどのような医療を受けたいか、受けたくないかを記した書面、いわゆる「事前指示書」をあらかじめ作成しておくことに対して、調査対象者の66.0%の人が「賛成」と回答し、「反対」と回答した人はわずか29.1%に留まるという結果になったのです。
この調査は5年ごとに行われており、前回の調査では、「賛成」と答えた人は69.7%だったので、今回の調査結果はそれよりも3.7ポイントほど減る形にはなりました。
しかし、今回の調査でも全体の7割近くが賛成と回答しているという点では変わりなく、さらに「実際に事前指示書を作成済みの人」の割合は8.1%となり、前回調査の3.2%を4.9ポイントも上回る結果となっています。
事前指示書への関心の高さはなお続いており、実際に作ったという人も増えつつあるのです。
事前指示書には全国的に統一化された書式などはありませんが、「受けたい治療行為・受けたくない治療行為を意思表示しておく」、そして「自分で治療方針を判断できなくなった場合、自分に代わって判断してもらう人を指名しておく」という目的で作られるという点では共通していると言えます。
医療関係者の間では肯定的に取られていない事前指示書
しかしその一方で、事前指示書を巡ってはさまざまな問題点も指摘されています。問題の一つとして、病院・医療関係者の間では、必ずしも肯定的に受け取られていない面があるのです。
よく指摘されている問題の一つが、事前指示書を作成した時点とそれを履行する時点が時間的に隔たりがあるということ。
事前指示書を作成するときに、今後起こり得るすべてのことを想定できるわけではありません。
場合によっては、作成時には想定外だった事態が生じ、指示内容が不適切なものになることも考えられるわけです。
また、事前指示書を通して作成時における本人の真意をきちんと解釈できるのか、という問題もあります。
例えば「延命措置は一切しないでほしい」という指示書を作った人が終末期に脱水症状となり、それをケアすること(水分補給)は延命に繋がる、という状況を考えてみましょう。
この場合、指示書を作った本人は、脱水症状のケアを含めて延命措置を拒絶していたのか、それとも脱水症状への対策はあくまで緩和ケアの一環であり、それは延命措置に含まれないと考えていたのか、どう解釈してよいのかわからない…という事態が起こってしまいます。
このように、事前指示書は意思表示の方法としては必ずしも万全なものではなく、場合によっては医療関係者や残された家族に混乱を招く原因になりかねないのでは…とも言われているのです。
QODが重視される社会に
日本人の死亡者数は20年後には36万人も増加する事態
今や日本は超高齢社会に突入していますが、こうした急速に進む高齢化と共に増加していくと予測されているのが「死亡者数」。
厚労省の「人口動態統計」によれば、日本人の死亡者数は2003年に史上初めて100万人を突破。
その後も増え続けて、2016年時点における日本人の死亡者数は合計130万7,748人(そのうち7割以上が75歳以上)となっています。
今後もさらに増加し続けると見られ、ピークとなる2039年には年間死者数が166万9,180人に上ると推計されているのです。
まさに日本は、本格的な「多死社会」になりつつあると言えるでしょう。

そうした中、内閣府が「最期を迎えたい場所はどこか」を問うアンケート調査(2012年)を行ったところ、最も多かった回答が「自宅」で、過半数に達する54.6%を占めました。
「病院などの医療施設」は27.7%ですから、それよりも2倍近い差をつけていることになります。
「医療行為の質」のみを考えれば設備の整っている医療施設の方が優れているわけですが、そのことよりも人生最期の時間を住み慣れた自宅で過ごしたいというQOD(クオリティ・オブ・デス。直訳すると「死の質」)を重視する人の方がはるかに多いわけです。
日本では尊厳死の代わりにリビング・ウェルが普及
QODについて考える場合、「尊厳死」も重要なテーマ・選択肢となります。
尊厳死とは、心肺蘇生装置や人工呼吸器、経管栄養などで人工的に延命することを拒み、自然な死を迎えることです。
尊厳死を重んじる「死の権利協会世界連合」は、自然な死を望む場合、元気なうちにリビング・ウィル(生前の意思)として意思表示をしておくことを提唱しています。
外国では、リビング・ウィルについては日本よりも注目されており、例えばアメリカでは1970年代頃から、患者の希望に従って人工呼吸器を外しても医師は罪に問われないことが、インフォームド・コンセント(医師による十分な説明を受けた上での同意)を通して一般的に確立。
現在では多くの州において法制化されています。
日本では、2012年に「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」の成立に向けた動きがありましたが、尊厳死を巡っては賛否両論が尽きず、法制化には至っていないのが現状です。
その代わり、現在日本においては、病気の症状による苦痛・不快感を緩和し、精神的な平穏や余生の充実化を目指す「ターミナルケア」という形で、尊厳のある死という考え方が医療・介護の場で認められています。
病院ではホスピス(緩和ケア病棟)における緩和ケアの一部と位置付けられ、がん患者やエイズ患者がその対象です。
日本で尊厳死が受け入れられていない理由
尊厳死を受け入れる法整備ができていない
「延命治療を打ち切っても罪に問われない」という法律がない日本では、たとえ患者本人、家族の同意があっても、延命治療を中止することは難しい面もあります。

みんなの介護が行ったアンケート調査では、8割以上の人が尊厳死を認める法律に賛成していますが、法制化されていない現状では延命治療を打ち切ったことで殺人罪にも問われかねず、医師としてはそのようなリスクを冒したくないわけです。
実際、富山県の射水市民病院では、2000~2005年にかけて意識がなく回復が見込まれない患者7名の人工呼吸器を外した医師が、県警によって殺人容疑で書類送検されました(患者のうち1名については家族を通して患者本人の同意があり、残り6名は家族の同意のみ得られていたとのこと)。
他にも北海道、和歌山県でも同様の事件が起こり、いずれのケースも最終的には不起訴となりましたが、やはり尊厳死を認める法制定がない以上、医師としては延命治療の打ち切りは難しいというのが実情。
患者の側が延命治療を拒否したくても、医療の側がそれを実行に移すという意思を持ちにくいわけです。
こうした尊厳死を巡る現状に加え、日本は諸外国よりも高齢者の医療費負担額が少ないということもあって、延命治療が長期化する傾向にあるのです。
尊厳死が認められることで、死生観を押し付けてしまう可能性がある
そして、尊厳死を考える際に気をつけないといけないのは、すべての人がQODに対して同じ考えを持っているわけではないということ。
「尊厳死を認めるべき」という意見を強調することは特定の死生観を普及させることにもつながり、そのことを危惧する声が多いのも事実です。
また日本では先に述べた通り、2012年に尊厳死の法制化を目指す動きがありましたが、「死ぬための権利」を法理として扱うことそのものにも疑問を投げかける意見もあります。
例えば、尊厳死に関する法律が施行されることによって、自分が末期の病にかかってもなお延命したいと思ったとしても、「死ぬ方が尊厳は守れる」という価値観を一方的に正当化され、押し付けられることにもなりかねません。
QODに対してはさまざまな見方があり、一つの意見だけが正しいとは言い切れないのです。
今回は、事前指示書への社会的な関心の高まりの話題を皮切りに、QOD、尊厳死の問題について考えてきました。多死化の進む日本ですが、自分の最期の時とどう向き合うべきかを巡る議論は、今後も続いていきそうです。
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2020年9月7日 制定