高齢者にとってペットを飼うことがブームに
犬の飼育者のうち約4割は高齢者
一般社団法人「ペットフード協会」の調査によれば、全国の犬、猫の推計飼育頭数(2017年)は犬が892万頭、猫が952万6,000頭で、年代別にみると50代以上の飼育者が犬では全体の40.1%、猫では29.1%を占めるという結果となっています。
犬と猫が中高年世代の良きパートナーとなっている実態を端的に示すデータだと言えるでしょう。

中高年以上の世代で犬・猫を飼う人が多い理由は、一つには絞れませんが、有識者・専門家の間でよく言われているのは「癒しの効果」です。
動物に接した際、「ストレスの緩和」や「精神的な安定」といった効果が得られることを「アニマルセラピー」と呼び、高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ、日本語の意味は「生活の質」)の向上や認知症予防の効果があるとして注目を集めています。
そのため、老人ホームでも動物を飼育している、あるいは自宅で飼っていたペットを持ち込めるという施設は多いようです。高齢化が進む現在、高齢者福祉の現場でもアニマルセラピーの効果に期待が集まりつつあると言えるでしょう。
犬を飼っている人は飼っていない人に比べて死亡リスクが33%も低下
昨年11月、イギリスの科学雑誌である「サイエンティフィック・リポート」において、一人暮らしで犬を飼っている人は、飼っていない人よりも死亡リスクが33%も低くなるとの研究結果(スウェーデン人340万人を対象に12年間に渡る調査に基づく)が発表されました。
死亡リスクを低下させる理由にはさまざまな要因が考えられますが、その一つが動物と触れ合うことで分泌される「オキシトシン」と呼ばれるホルモンの影響。
オキシトシンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれており、不安をやわらげて幸せな気持ちをもたらす働きがを持ち、年齢・性別を問わず体の免疫力を高めると言われているのです。
また同研究では、犬を飼っていることで心血管疾患になるリスクが36%も低減することが明らかにされています。
心血管疾患(心筋梗塞や狭心症など)は「サイレントキラー」とも呼ばれ、自覚症状がないまま病状が進行し、症状が現れたときには重症化していることも多いのが特徴。
日本では高齢者(65歳以上)における死亡原因の第2位となっており、心血管疾患のリスクを下げるという効果は、高齢者にとって非常に有益であると言えるでしょう。
ペットを持つことで起こる病気・症例とは
ペットが高齢がゆえに起きやすいズーノーシス
さまざまな効果が期待できるペットとの触れ合いですが、その一方で飼育の際に気を付けなければならないこともあります。それは、「ズーノーシス」と呼ばれる感染症です。
ズーノーシスとは、人間が犬・猫といった動物から感染する人獣共通感染症のことで、その数は200種類以上あり、日本国内だけでも25種類ほど確認されています。
中でも「パスツレラ症」は犬・猫から感染する代表的なズーノーシスで、犬の75%、猫の100%が保持しているパスツレラ菌が感染源。
ペットに噛まれたり、引っかかれたりすることで人間の体内に菌が侵入し、呼吸器系疾患、敗血症、骨髄炎、髄膜炎といった全身重症感染症をもたらし、抵抗力の弱い高齢者は死亡するケースもあるのです。

近年はペットの平均寿命が延びており、人間だけなくペットにおいても高齢化が進んでいます。
高齢になると感染症に対する抵抗力が落ちるのは動物も同じで、それだけ人に対する感染のリスクも高まることにもなるわけです。
動物を飼う場合は、こうした感染症の危険性があることは自覚しておく必要があるでしょう。
ペットロス症候群は最悪の場合「死」にもつながる
また近年、ペットロス(ペットを亡くした際の悲しみや喪失感)が重症化し、うつ病などの心の病や身体的な病気になってしまう「ペットロス症候群」に陥る高齢者が増え、問題視されつつあります。
ペットと死別することは年代を問わず悲しく、大きなショックを受けるものですが、高齢者の場合は長年連れ添った伴侶動物となっていることが多く、その喪失感は若い世代よりも大きくなりがちです。
また、一緒に生活していた動物が、亡くなった配偶者・家族を思い出させる存在だった場合、動物を失った悲しみに過去の喪失体験が重なってしまい、落胆もその分深いものになってしまいます。
さらにリタイア後の高齢者だと、一緒に暮らす動物によって日々の生活のリズムが保たれていたり、ペットと散歩に出かける、定期的に動物病院に行くなど、外出理由や人とコミュニケーションを取るきっかけになっていたりすることも多いです。
しかし、ペットが亡くなることでこうした生活・行為ができなくなってしまうため、生活のあり方や社会的な活動に変化を与え、肉体的、精神的に大きな悪影響を及ぼすこともつながります。
このようなペットロスの影響によって飼い主の余命が短くなるというケースは多く、高齢者にとってのペットロス症候群は、死にもつながりかねない深刻な症状とも言えるわけです。
高齢者がペットを飼う時の注意点とは
ケアマネージャーを悩ますペットの飼育
川崎市の地域包括支援センターが今年4月に行ったケアマネージャーを対象にしたアンケート調査(市内の居宅介護支援事業所に属するケアマネージャー28人から回答)では、全体の8割以上の人が、「利用者支援の際に、飼われているペットのことで困った経験がある」と答えました。
高齢者が自宅でのペットの世話をきちんとできておらず、そのことがケアマネージャーの介護支援業務に支障をきたしている実態が明らかにされたのです。
アンケート結果を詳しくみると、「どんなときに困ったか」という問いに対して、「サービス提供の際に支障があった」(13人)、「訪問時におけるペットの対応」(11人)、「在宅困難になった際、ペットへの対応に困った」(8人)となっています。
高齢者がすでにペットの世話をできなくなっていて、自宅内が糞尿の悪臭で満ちていたケースや、犬のしつけができていないために訪問時に噛まれたケースなどもあったとのこと。
この調査の対象はケアマネージャーのみでしたが、訪問介護や訪問リハビリなどその他の居宅サービスにおいても、同様の事例が起こっているとも推測されます。
高齢者による多頭飼育崩壊の問題
また近年、高齢者のペットを巡って増えているのが「多頭飼育崩壊」の問題。
ペットの不妊去勢手術を行わずに自宅内・自宅敷地内で10匹、20匹と数を増やし続け、やがて世話しきれなくなって「ゴミ屋敷」化していき、近隣住民とトラブルになる…というケースが全国で頻発しているのです。

さらに、多頭飼育の末にペットに餌や水を与えきれなくなってしまい、飼い主である高齢者が動物愛護法違反で逮捕されるという事例も岐阜県大垣市で起こっています。
そして、2016年度に環境省が行った調査によれば、全国115の自治体(都道府県や政令市、中核市など)のうち、近隣住民からの苦情により犬の多頭飼育をしている人を指導した件数は2,606件に上りました。
不妊去勢手術費用を助成している自治体もあるので、同様の問題に直面している高齢者の方は、早めの対応が望まれます。
今回は、高齢者がペットを飼育する際に生じ得るさまざまな問題について考えてきました。
中高年以上世代の方でペットを飼っているという方(特に独居の方)は、自分で世話しきれなくなったときにペットの処遇をどうするか、早めに考えておくことが望ましいと言えます。
最近はペット可の介護施設も増えていますので、もし自宅でペットの世話するのが難しくなった場合は、そうした施設に住み替えを考えるのも手なのかもしれません。
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2020年9月7日 制定