イギリスの医学誌、断酒による認知症リスクへの影響を公表
長期的な断酒を行う人は神経変性疾患にかかるリスクが50%も増加
8月1日、イギリスの医学誌「ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル」に、長期的に断酒を行っている人は、アルツハイマー病などの神経変性疾患にかかるリスクが約50%高いとする研究論文が発表されました。
この研究は、フランスの国立保健医学研究所のセブリーヌ・サビア氏が中心となって行ったもので、医療記録を再検証することで導き出されました。新薬の評価に用いられるような、科学的で厳密な臨床試験によるものではなく、また研究対象となった症例数も小規模です。
しかし、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学のセビル・ヤサル准教授などは、今回の調査結果は確かなものであり、「軽度~中度(週に1杯~14杯)のアルコール摂取に認知症リスクの抑制効果がある可能性」に関連した、政府の援助による臨床試験を促すのではないかと指摘。
研究結果を評価する声は少なくありません。
なお論文では、アルコールの摂取は死亡率・神経性心疾患・肝硬変・がんなどと関連性を持っており、飲酒習慣のない人に飲酒を始めるよう勧めるものではないことも指摘されています。
アルコールによる認知症の発症リスクは男女共に3倍を超える
アルコール性認知症は、飲酒を過度に続けることで脳血管疾患やビタミンB1欠乏などの栄養障害が起こり、その結果、発症する認知症のことです。多量にアルコールを摂取し続けるだけでも、認知機能の低下を引き起こす脳萎縮が進行していくとも言われています。
アルコールと認知症との関連性については、フランスで2008年から2013年にかけて行われた大規模調査が有名です。
フランスにおける認知症の有症者110万9,343人の医療記録を解析したところ、アルコール使用障害に陥っている人は、あらゆるタイプの認知症を発症するリスクが男性だと3.36倍、女性では3.34倍も高まることが明らかにされています。
ほかにも、飲酒しない人を1.0とした場合、1週間の飲酒量がビール14本以上(1本は350ml)だと認知症の発症リスクは2.2倍になるとの研究結果もあり、アルコールの大量摂取と認知症との関連性を示す研究は蓄積が進んでいると言えるでしょう。

こうしたアルコール性認知症を引き起こす大きな原因となるのが、慢性的な過剰飲酒状態に陥る「アルコール依存症」です。高齢化が進む日本では、高齢者世代のアルコール依存症患者が増えつつあり、近年問題視されるようになっています。
高齢者がアルコール依存症にかかりやすいのはなぜか?
アルコール依存症者の5人に1人は高齢者
国立病院機構久里浜医療センターが行った調査によると、同センターにアルコール依存症の治療で受診する65歳以上の割合は、2002年では15%だったのに対し、2012年には24%にまで上昇したとのこと。
高齢者の依存症患者が増えている実情が明らかにされています。

また、厚生労働省が公表している研究報告書(「被災地のアルコール関連問題・嗜癖行動に関する研究」)によれば、男性におけるアルコール依存症の有病率はアメリカ人よりも日本人の方がずっと高く、45歳~64歳の年代では約3.2倍、65歳以上では9.25倍に上っています。
日本の中高年男性は、アメリカにおける同年代の男性よりも、アルコール依存症になる危険性が高いわけです。
高齢世代がアルコール依存症になりやすい理由としては、まず、高齢になるほどアルコールを分解する能力が落ちてしまうことが挙げられます。
そのため、若い頃と同じ量を老後も飲み続けてしまうと、依存症になるリスクが高まってしまうのです。
また、高齢者は子どもの独立や親しい人との死別など、精神的な動揺に直面しやすくなります。
寂しさや悲しさを紛らわすために飲酒するようになり、そのまま依存症になるというケースは多々あります。
アルコールが原因で犯罪を起こしてしまうことも
アルコール依存症は、認知症の引き金になるという危険性だけでなく、依存症という病気そのものの恐ろしさもあります。
発症してしまうと飲酒量を自分で制御できなくなり、アルコールへの精神依存・身体依存が加速。
飲酒しないと手が震える、幻覚が見えるなどの症状が現れるほか、借金、窃盗、暴力と、犯罪を起こしてしまうこともあるのです。
症状が進行する中で失職し、家庭が崩壊するというケースも珍しくありません。
そこに認知症の症状が重なると、さらに飲酒をコントロールできなくなるでしょう。
世界保健機関(WHO)は、危険な飲酒をしている人を早期発見するために「アルコール使用障害スクリーニング」(AUDIT)を開発して、その普及を進めています。スクリーニングとは「ふるい分け試験」のことを指します。
例えば「あなたの飲酒の頻度はどのくらいですか」との問いに対して、「飲まない」と回答すれば0点、「1ヵ月あたり2度~4度」では2点、「週に4度以上」では4点という形で点数がつけられ、点数が低いほど問題性はないと判断されるのです。
もし自分や家族の飲酒状態に問題を感じるなら、医療機関などでこうしたスクリーニング検査を早めに受け、段階に応じた適切な治療を受ける必要があるでしょう。
適度なアルコール摂取が認知症対策に
1日5g~10gのアルコール摂取でリスクを下げる
アルコール依存症とそれによってリスクが高まるアルコール性認知症は、あくまで「過度の飲酒」が原因です。
今回イギリスの医学誌で発表された論文もそうですが、「適度な飲酒」であれば、むしろ認知症の発症リスクを抑え、健康増進につながるとの研究報告は少なくありません。
おおよそ1日のアルコール摂取量が5g~10gくらいだと、お酒を全く飲まない人よりも認知症の発症リスクが低下すると報告している研究もあるくらいです。
(アルコール10gは、ビールだとロング缶の半分にあたる250ml、ウィスキーだとシングル1杯分にあたる30ml、ワインだとグラス1杯弱にあたる100ml相当)。
またアルコールには、認知症以外にも善玉コレステロールを増やす、血管を拡張し血液をサラサラにするなどの働きもあり、少量の摂取だとより効果的に作用するとも言われています。少量飲酒であれは、健康増進につながる部分は多いと言えるでしょう。
なお、世界保健機関では「男性の場合は1日当たり60g以上、女性の場合は40g以上のアルコール摂取」を大量飲酒と定義しています。そこまでの飲酒は決してしないようにし、適量の飲酒を心がけていくことが健康を保つ上で大事です。
ただし、当然ながら個人差があります。少量のアルコールを口にしただけで、顔面紅潮、動悸、嘔気、頭痛などの症状が出る人は注意しましょう。
「酒は百薬の長」を意味する「Jカーブ」とは
少量の飲酒が病気のリスクを下げることは「Jカーブ」という言葉で表現されることが多いです。
これは、縦軸を「病気発症のリスク」、横軸を「飲酒量」とするグラフにおいて、「飲酒しない場合よりも、少量の飲酒をした方が病気発症のリスクは下がる」こと、そして「一定以上の飲酒をすると、飲酒をしない場合よりも病気発症リスクが上がる」ことを示すと「J」の形になることから、そう呼ばれています。
この「Jカーブ」を描くとされる病気は、虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病などです。

ただし、すべての病気が「Jカーブ」に当てはまるわけではなく、飲酒量と正比例して発症リスクが高まる病気もあるので注意しましょう。
また、飲酒とJカーブの関係が当てはまるのは先進国の中年男女のみです。
それより若い世代だと、直線的にリスクが上がるとの研究結果もあります。
今回は飲酒と認知症・健康との関係について考えてきました。
健康増進のため、あえて飲酒することは病気のリスクを伴うのでお勧めできませんが、飲酒が好きな方にもそうではない方にも、アルコールと上手に付き合いながら、健康寿命を伸ばす取り組みをしていただきたいです。
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2020年9月7日 制定