
映画や本などのフィクションの存在でしかなかった「ロボット」が現実社会での活躍を始めています。
物語の中では怖いイメージの多かったロボットですが、1999年に動物型ロボット「AIBO(アイボ)」が発売されて以来、始めて本格的な二足歩行ができるようになったロボット「ASIMO(アシモ)」や、掃除ロボット「ルンバ」、感情を認識するロボット「Pepper(ペッパー)」など親しみの持てるロボットが急速に身近なものになりました。
現在、このロボット技術を介護の世界に活かせるような開発が多く進められています。
超高齢社会となった現在、「介護」の問題は避けて通れない課題です。
「介護」にまつわる課題は多々あるものの、どの課題にも「介護人材の不足」という言葉が必ずといっていいほどついてまわります。
その「介護人材不足」に、ロボットが一役買うとしたら、想像しただけで期待が高まります。
しかし、想像はあくまで現実からの期待値込みのもの。そこで今回は、介護の現場におけるロボットの現実、そして使用者(介護職員)と利用者のアンケート調査結果を分析し、より現実的に“介護ロボットの未来”についてまとめてみました。
介護業界の有効求人倍率は驚きの1.82!求人が多い=人手が足りない状況が加速
“腰痛”を理由に介護職を辞める人も多数
高齢者の数が増えることに比例し、年々、介護施設や介護人材の需要も増えてきています。
失業率の高さや、就職難といった報道をよく耳にする現在ですが、介護分野においては、全業種と比較しても有効求人倍率(※)は高く、まだまだ人材は不足しているという現状がみてとれます。
※求人倍率…求職者1人に対して何件の求人があるか示したもの。1.0より高いと求職者より求人のほうが多い。

介護施設も年々増え、介護スタッフの有効求人倍率が伸びているのに、仕事内容に見合う報酬が得られないからか、応募に二の足を踏む人が多いよう。
結果的に人材不足の問題は解決を見ず、有効求人倍率は上がり続けるばかり。
どうして人材の不足問題はなくならないのでしょうか?
。介護福祉士を対象にした、過去に働いていた職場を辞めた理由についてのアンケート結果をみると「職場の人間関係/24.7%」「収入が少ない/23.5%」という一般的な退職理由についで、介護の仕事につきものともいえる「腰痛」という理由が14.3%と多いことが特徴的です。

寝たきりの高齢者の体勢を変えたり、移動の際に抱き上げたり、支えたりと、想像するだけでも腰に負担のかかる場面は多そうです。
たしかに、腰を痛めると日常生活にも支障が出ることがあるほど。
体を使う介護の現場では仕事を続けるのが難しくなってしまうのも無理もありません。
そこへロボットが普及し、腰に負担のかかる場面や、力の必要な場面で助けてくれたら、介護者の負担がかなり軽減されることは容易に想像ができます。
「腰痛のため」というのは、やむを得ない離職理由ですが、それがなければ「もっと働きたかった」という人も多いでしょう。この問題が解消されれば、離職率や介護人材の減少に歯止めをかけることができるかもしれません。
はたして、この人材不足解消の可能性を秘めた「介護ロボット」が、実用化される日はくるのでしょうか?
身体的な負担を軽減させる可能性を秘めたロボットたち
ロボットというと、アニメの中に出てきたような人型のものが想像されますが、現在、介護の現場において多くの介護ロボットが活躍しています。
経済産業省と厚生労働省は、その中でも「ロボット技術の介護利用における重点分野」を公表し、介護が必要な人の自立促進や介護者の負担を軽減させるための介護ロボット開発を8つの重点分野で行っています。
| 具体的項目 | 特徴 |
|---|---|
| 移乗介助機器 (装着型) |
介助者が装着して使うことで腰の負担を軽減/介助者が1人で着脱可能/ベッド、車いす、便器の間の移乗に用いることができる |
| 移乗介助機器 (非装着型) |
介助者が1人で使用することができる/ベッドと車いすの間の移乗用/移乗に当たって介助者の力の全部または一部のパワーアシストを行う/機器据え付けのための住宅等への工事不要/つり下げ式移動用リフトは除く |
| 移動支援機器 (屋外型) |
手押し車型/高齢者が自らの足で歩行することを支援する/荷物を載せて移動できる/モーター等で移動をアシスト/4つ以上の車輪を有する など |
| 移動支援機器 (屋内型) |
トイレへの往復やトイレ内での姿勢保持を支援/要介護者のみ、若しくは1人の介助者のサポートで使用できる/椅子からの立ち上がるやベッドからの立ち上がりを主にサポート など |
| 排泄支援機器 | 居室で便座に腰掛けて用いる便器 ・排泄物の臭いの拡散を防ぐため排泄物を室内へ流す、または密閉して隔離する ・室内での設置入りが調節できる |
| 見守り支援機器 (介護施設型) |
センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を使用/複数の要介護者を同時にも守ることができる/昼夜問わず使用できる/要介護者が自発的に助けを求める行動情報だけに依存しない/ベッドからの離床を検知し通報できる |
| 見守り支援機器 (在宅介護型) |
センサーや外部通信機能を備えたロボット技術を使用/複数の部屋を同時に見守りができる/暗室や浴室でも使用できる/要介護者が転倒したことを検知し通報できる など |
| 入浴支援機器 | 浴槽に出入りする際の一連の動作をサポート/要介護者のみ、若しくは1人の介助者のサポートで使用できる/機器を使っても少なくとも旨にまでお湯につかれる/介助者が1人で取り外しができ、特別な工事なしに設置できる |
要介護者を移動させる、支えるなどはイメージしやすい場面ですが、排泄支援、見守り、入浴支援など、今までマンパワーでまかなっていた部分までも、ロボットが導入できるとしたら、介護者にとってはかなりの負担軽減になるのではないでしょうか?
介護ロボットの利用経験者の8割超が「また利用したい」
介護ロボットについて行ったアンケート調査によると、介護にロボットが活用されていることを知らなかった人も半数近くにのぼりました。
| 知っているが利用したことはない(55.2%) | |
| このアンケートで知った(42.3%) | |
| 看護・介護現場で使用したことがある(1.2%) | |
| 自分もしくは家族が利用したことがある(1.3%) |
しかし、実際に使用したことのある人からは、「継続的に利用したい、もしくはまた利用したい」という声が82.9%と高く、介護の現場では実際に介護ロボットが役に立つということがわかります。
| 現在も利用している、もしくはまた利用したい(82.9%) | |
| もう利用したくない(14.3%) | |
| 無回答(2.9%) |
一方で、今まではただでさえも日常生活に馴染みのない存在「ロボット」。その上「介護」という限られた場面で使うことを考えると、その「価格」は気になるところです。
しかし、介護ロボットの市場規模はまだ少なく、介護ロボットの普及率は算出できないのが現状です。ロボットのみで介護はできないため、介護スタッフの人件費に加え、介護ロボットを購入するためのコストもかかることになります。
さらに、一人を介護するためには多くの種類の介護ロボットが必要になり、その都度、介護者は使用するロボットを選択する必要があります。
何種類もの介護ロボットが必要になり、一般的に手が届く範囲でなければ、いかに便利であっても夢の機械で終わってしまいます。現状はどうなっているのでしょうか?
介護ロボットの普及はもうすぐそこ!?解決へのポイントは要介護者&介護職員に寄り添えるかどうか
一般家庭への普及はまだ難しい?
介護の現場において、とても活躍してくれそうなロボットですが、私たち一般の家庭でも購入は可能なのでしょうか?
感情を認識するロボット「Pepper(ペッパー)」は本体価格19万8,000円(税抜)、掃除ロボット「ルンバ」は発売時期や機種にもよりますが、3万円台~8万円台と、いずれも高価ではありますが、手の届かない金額ではないようです。
それでは、介護ロボットについてはどうなのでしょうか?
「見守り」だけなど、機能をしぼったロボットは数万円~と比較的手が届く価格帯のものが多いようですが、移乗支援などの特殊な機能を持ったロボットとなると数百万円、高齢者を抱きかかえる人型のロボットは2000万円…と、一般の家庭ではとても気軽に購入できるものではなさそうです。
移乗支援のロボットなどは、比較的広いスペースも必要なため、一般家庭で普及していくには、まだまだ課題が多いようです。
介護ロボットへの最大の不安は「誤作動」
前述のアンケートで「介護ロボットを利用したくない」と回答した人の理由では「誤動作が不安/51.9%」「故障の可能性がある36.8%」と機械ならではの不安がもっとも多くあがりました。
まだ利用したことがある人のほうが少ない「介護ロボット」をどう操作するのか?誤動作により事故は起きないか?といった不安が多いのもわかります。
また、高価なロボットになればなるほど、家計への負担も高まり、故障した時の買い替えや修理への不安も大きいでしょう。

同時に、「ロボットに介護される」という場面が、なかなか想像つかないこともあり、「ケアに温かさを感じない/39.2%」「いざという時に頼れない/33.6%」という、人と違う無機質な部分、人と違って臨機応変に対応できないことへの不安なども見てとれます。
今後、このような不安をいかに解消していくかが、介護ロボットが普及するためのカギとなるでしょう。
「ロボット大国ニッポン」ならではのロボット開発に期待

その現状を鑑み、政府は開発補助金を出し、介護者が高齢者を移動させる際の「持ち上げ支援」、居間などでも排泄物を自動で処理できる「排泄支援」、坂道でも一人で歩けるようアシストする「移動支援」、認知症の高齢者の動作をセンサーが感知する「見守り機能」などの機能をしぼったロボットを10万円程度で販売できるよう開発が進められています。
現在、介護ロボットの国内市場規模は約20億円ともいわれます。
政府は、「2020年に介護ロボットの市場規模を500億円に」「移乗介助などに介護ロボットを用いることで、介護者が腰痛を引き起こすハイリスク機会をゼロにすることを目指す」とも明言しています。
約800万人ともいわれる団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」を前に、いかに政府が介護ロボットの開発・普及に力を入れているかが伝わってきます。
日本は「ロボット大国」ともいわれるほど、ロボット開発に積極的です。また、日本人ならではの細やかな配慮や心配りなどがロボットに生かされていることもあり、世界中から注目が集まっています。
介護現場への普及のためには、介護者の理解が不可欠
「介護ロボット」が介護に役に立つことは想像できますが、やはり「人と人との関わり」が大切な介護の現場では、ロボットだけでできることは少ないでしょう。
経済産業省が行った調査によると、介護をする際・される際には、ロボットを利用したいという声が多い一方で、「利用したくない」という回答が一定数あることにも留意しなければなりません。
| 利用したい(24.7%) | |
| どちらかといえば利用したい(35.1%) | |
| どちらかといえば利用したくない(19.3%) | |
| 利用したくない(14.6%) | |
| わからない(6.4%) |
会話をしたり、生活しているという実感をもつことが、高齢者の生きがいにもつながるはずです。このような不安を少しでも解消し、介護ロボットを利用できるようになることが望まれます。
と同時に、主な使用者となる介護スタッフに対する配慮も必要になるはずです。確かに介護ロボットの開発には最先端の技術が用いられますが、そうした技術の追求だけに走ってしまっては、本質を見失いかねません。
ロボット開発のために介護現場を利用するのではなく、介護現場の環境を良くするためのロボット開発であって欲しいもの。
あくまで「介護する人・される人」に寄り添ったロボット開発によって現場の理解を得られれば、実用化までの道も拓けてくるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定