
ここ数年、「介護難民」という無情な言葉が目立つようになりました。
老人ホームに入居したくても入れない、入居者しても24時間体制の医療行為が必要な状態になってしまうと退去を求められてしまうなど、悲痛な相談や報道が年を追うごとに増えています。
さらに、2025年には東京圏だけで約13万人が必要な介護を受けられない「介護難民」になるという試算も。その対策として、日本創生会議が地方への移住を提唱したことが大きな波紋となっています。
日本創成会議が6月4日に発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」で、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となる2025年には、全国で約43万人が必要な介護を受けられない「介護難民」になるという試算が出ています。
日本創成会議は日本の将来像を示すため、大学教授などの有識者等により2011年5月に発足しました。
同会議は昨年の2014年5月にも、2040年に全国896もの自治体が消滅する可能性があるという衝撃的な推計を発表し、少子高齢化問題に一石を投じています。
特に東京圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で高齢化は急速に進み、2015年から2025年までの10年間で75歳以上の高齢者は、東京都が50.5万人、神奈川県が47万人、埼玉県が41.2万人、千葉県が36.6万人、合計で175.3万人の増加という推測も。
2025年には75歳以上の高齢者は全国で約532.7万人増え、その約3分の1が一都三県に集中すると見込まれています。
後期高齢者(75歳以上)人口の増加の見通し
| 都道府県 | 75歳以上人口 | 増加数 | |
|---|---|---|---|
| 2015年 | 2025年 | ||
| 東京都 | 147.3 | 197.7 | 50.5 |
| 神奈川県 | 101.6 | 148.5 | 47.0 |
| 埼玉県 | 76.5 | 117.7 | 41.2 |
| 千葉県 | 71.7 | 108.2 | 36.6 |
| 一都三県計 | 397.1 | 572.1 | 175.3 |
| 全国 | 1645.8 | 2178.6 | 532.7 |
介護需要は2025年までの10年間で大幅に増加し、全国平均で32%の増加が見込まれていますが、これも東京圏の増加が最もいちじるしく、東京は38%増ですが、埼玉県が52%増、千葉県が50%増、神奈川県が48%増という高い伸びが見込まれています。
東京圏だけで全国の高齢者の約3分の1にあたる約13万人が「介護難民」になるという試算が出ているほどですが、この流れは止めることができないのでしょうか?
地方移住促進の真の目的は、「地方創生」よりも、東京圏の介護難民の増加を防ぐため!?
介護難民が出現するのも致し方ないのが日本の現状

なぜ介護難民が出てきてしまうのでしょうか? それも必然、1947年から1949年に起きた、第一次ベビーブーム世代が、2015年の段階で65歳を超えている日本では、この3年間に生まれたいわゆる団塊の世代と言われる人たち約800万人が、徐々に介護サービスを必要としてきているからです。
現に、要介護・要支援認定者数は2000年には218万人だったのが2012年には533万人とここ十数年で急増していますが、団塊の世代の高齢化によって介護を必要とする高齢者が、今後更に急増することは必至。
既に問題として噴出している介護難民は、これから今以上に深刻化していくことが予想されているのです。
介護の場、そして介護をする人が少ないのが大きな問題
| 大いに不足(6%) | |
| 不足(20%) | |
| やや不足(31%) | |
| 適当(43%) | |
| 過剰(1%) |
介護を必要とする高齢者の増加に伴い、ニーズが高まってくる介護サービスですが、サービスを提供する事業所及び、そこで働く介護職の人員不足が深刻となっています。
要介護者の増加に伴い介護サービスへのニーズが高まり、2025年には介護職員が国内で240~250万人は必要となると推計されています。
その一方で、少子化により、そもそも日本国内に働き手となる世代が減少していくことに加えて、介護施設では従業員が不足していると感じている施設が全体の56.5パーセントと過半数。
こうした需要と供給のアンバランスな状況は介護難民を生み出す最大の原因となっているのです。
高齢化社会を受けて、介護サービス事業を展開しようとする人や企業は少なくないものの、実際に展開しても、働き手の確保が難しいという現状もあり、高齢者人口に追いつくまでの、介護の場と介護職の人手が得られていないという問題もまた、介護難民を誘発する一因となっています。
「自宅に留まりたい」が約7割。“介護は自宅で”というのが高齢者の本音?
県知事でさえ疑問視する高齢者の地方移住に現実味はあるのか!?
「介護難民」の増加、特に東京圏で深刻になることを前提に、日本創成会議が打ち出した「東京圏高齢化危機回避戦略」の対策は、外国人介護人材の受け入れ、ICTや介護ロボットの活用、空き家を利用した医療介護拠点への転用など。
ことさらに強調されたのが、医療や介護の施設に余裕がある地方都市への移住ですが、これが賛否両論まっぷたつの論争となっているのが現状です。
同会議の発表によると、「東京圏は、地方に比較して医療介護のコストが高い。医療介護費用は国民全体が負うことになるが、高齢者の地方への移住は、医療・介護・福祉のトータルコストの節減にも結び付くものとして、国民経済計算上も意義が大きい」としています。

地方移住の提案に対する自治体の対応は賛否両論さまざまですが、当事者である埼玉県の上田清司知事は「やや乱暴なところもあり、高齢者の地方移住を具体的に行政指導できるかというと、基本的にはできない」とコメントしています。
2025年の「介護難民」の試算は、厚生労働省の統計などをもとに、全国の介護ベッドの総数を収容能力の限界と設定して、10年後のベッド数の不足分を計算したとのこと。
この発表から20日後の6月24日、厚生労働省は2025年には全国で37.7万人もの介護職員が不足するという推計を発表しました。
しかも介護職員不足はすべての都道府県別で起こると推測されており、充足率が最も高い島根県でも100%を割る98.1%という数値です。
仮に移住先にベッドがあるとしても、手厚く介護してくれる職員はいるのでしょうか?
しかも東京都だけをみると、前に記した通り、日本創成会議が発表した2025年の介護需要は全国平均で32%の増加が見込まれていますが、東京都は38%と平均より6%多い程度の数値にとどまっています。
また、厚生労働省が発表した2025年の東京都の介護職員不足は、数字では3万5,751人と全国トップですが、充足率では全国平均の85.1%に比べて85.3%と、わずかではありますが平均以上の数値を示しています。
東京都は地方から若者が流入してくるため、他県に比べて比較的高齢化が抑えられてきました。
批判されている通り、「東京中心の戦略」「地方が東京圏の高齢者を押しつけられる」といわれても仕方のない感じがします。
まずは、長年続く地方から東京圏への若者の流出を抑えるための各自治体の取り組みのほうが重要なのではないでしょうか?
。「介護難民」を推計通り増やさないように、高齢者に寄り添う対策を!
日本創成会議の「東京圏高齢化危機回避戦略」には、政府が実施した東京在住者の意識調査で「50代の男性の51%、女性の34%が地方へ移住する予定または移住を検討したい」という調査結果が記されていて、これが地方移住を進める根拠になっているとされています。
しかし、これはまだ精力的に動ける50代の意見です。
実際に介護に直面する60歳以上ではどうでしょうか?
「平成26年版高齢社会白書」によると、60歳以上の高齢者に現在の住居の満足度について聞いてみると、「満足」または「ある程度満足」している人は総数で89.3%、持ち家では91.2%、賃貸住宅で69.9%。
さらに、60歳以上の高齢者が身体が虚弱化したときに望む居住形態についてみてみると、「現在のまま自宅に留まりたい」が46.2%、「改装の上、自宅に留まりたい」が20.2%で、合計すると66.6%の人が自宅に留まりたいと答えています。

このデータをみるかぎり、高齢者が本当に地方移住を望んでいるとは思えません。しかも、これからの時代は「定年後は悠々自適の田舎暮らし」という生活も一部の富裕層を除けば難しくなるでしょう。
日本創成会議の提言にある人口移住だけでは高齢化問題は解決しません。
高齢者の思いを無視した移住計画は反発も大きく、東京圏と地方との対立構造を招くだけでしょう。
とはいえ、すべてが否定されているわけではありません。
日本創成会議から医療・介護ともに受け入れ能力がある41の都市の一つに挙げられている大分県の別府市では、高齢者の移住を積極的に募っており、介護職員の雇用の拡充も進めています。
また、日本創成会議でも「介護難民」対策として期待しているのが「日本版のCCRC構想」です。
CCRC(Continuing Care. Retirement Community)とは、継続的なケア付きリタイアメントコミュニティーを意味するもので、高齢者が自立して生活できるうちに移住・入居して、社会活動に参加し、介護が必要になってもそのまま医療を受けながら暮らし続ける仕組みです。
石川県金沢市の「シェア金沢」は、高齢者だけではなく、若者や病気のある人、障害のある人も共に生活するコミュニティーが成功しています。このような日本版のCCRCが広まれば、今後、高齢者の移住も進むかもしれません。
確かに、このまま無策でいては、必ずやってくる2025年を乗り切ることはできません。
日本創成会議の提言を警鐘と受けとめ、行政に任せるだけでなく、国民の一人ひとりが「老後をどう過ごしたいのか」「介護難民にならないために何をすべきか」など、しっかりと自分自身の老後を考えることが大切なのは間違いありません。
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2020年9月7日 制定