一部のケアマネが特定処遇加算の対象に含まれた
介護職との兼務で制度の恩恵を受けられることに
7月23日、厚生労働省は今年の10月に創設される「介護職員等特定処遇改善加算」について、介護保険最新情報として運用に関する疑義解釈を発表しました。
この加算は、介護事業所が既存の処遇改善加算の区分であるⅠからⅢまでのいずれかの要件を満たし、取得していることが前提条件となります。
加えて、処遇改善加算の中に含まれる「職場環境等要件」を満たす取り組みを複数行っていることや、その取り組みについて自社のHP上に掲載するなどの“見える化”を行っていることも必須です。
また、事業所内の職員について、経験・技能のある介護職員、他の介護職員、その他の職種の3つの区分に分け、先に述べた方から加算における待遇改善が優遇される仕組みになっています。
しかし今回の発表では、本来の業務にくわえて施設で介護業務も併せて行うケアマネージャーや看護職については、加算で最も恩恵を受けることができる経験・技能のある介護職員としてカウントできることなどが示されました。
通常では、これらの職業は介護職員ではないため、今回の加算の恩恵が最も少ないその他の職種に区分されます。しかし施設によっては介護業務を兼任している場合もあり、その実態に即した形での対応だと言えます。
なぜケアマネが対象から外されていた?
そもそもケアマネージャーは、介護職員が所属していない居宅介護支援などの場合は完全に加算の対象外、施設に勤務する場合でも、最も恩恵の薄いその他の業種とされていました。
これはケアマネージャーが、介護職員よりも平均の給与が高いためと考えられます。
2018年の10月に行われた社会保障審議会介護給付費分科会の資料によれば、介護職員の平均給与額が29万3,450円なのに対して、ケアマネージャーは34万5,820円と、5万円以上の差があることが判明しています。

居宅のケアマネージャーが加算の完全な対象外となっていたことに加えて、今回の疑義解釈以前にも、施設に勤務するケアマネージャーは「その他の職種」とされていました。これは、施設内で不公平感を生まないための配慮と考えられます。
今回の発表にしても、介護業務を兼務していた場合は、ケアマネージャーによる介護職員への不公平感がより増すと想定されたことが、制度変更の一因と考えられます。
事実、介護従事者の労働組合である日本介護クラフトユニオン(NCUU)は、昨年の11月に居宅介護支援事業所などに所属するケアマネージャーの9割が、この処遇改善の内容について反対をしているという調査の結果を公表しています。
適正な分配で処遇改善の役割が果たされるために
事業所内の分配については事業所に裁量がある
冒頭で触れた通り、今回の加算は、経験・技能のある介護職員、他の介護職員、その他の職種の順に恩恵が受けられるようなルールが存在しています。
さらに詳しく述べると、経験・技能のある介護職員は、月額8万円の処遇改善となるか、あるいは改善後の賃金が440万円以上となる職員が1人以上必要となるほか、平均の改善額で他の介護職員の2倍以上となることが定められています。
他の介護職員の平均の改善額は、その他の職種の2倍以上の引き上げ額とすることが必要です。その一定のルールに従ったうえで、事業所に配分の裁量が認められるようになっています。
例えば、経験・技能のある介護職員かどうかを判断するうえで、基本的には勤続年数10年以上がひとつの目安となります。しかし、その勤続10年をどう捉えるかは、事業所の判断となっています。
他の介護職員やその他の職種の分配に関しても、上限は定められているものの、下限はないという状況です。これについては、介護業界で働く人の間にも、事業所に丸投げをし過ぎているのではないかという声が多数ありました。
また、同業者や、施設間、職種間でのバランスを取るのが難しいという指摘など、不安を感じている人の意見も多く聞かれています。
介護職の勤続年数は低いため対象者は限定的に
問題点はほかにもあります。
全国労働組合総連合が発表した今年発表した資料によると、介護職員の勤続年数は、介護保険制度が始まってから19年が経過した現在でも、現在勤務している施設での勤続年数が15~20年未満である割合は6.5%、20年以上は3.6%と、15年以上勤続しているという例はわずか10.1%にとどまっています。
また、10~15年未満も16.4%となっており、今回の加算における経験・技能のある介護職員となる目安、勤続10年という条件を全体の4分の1程度しかクリアしていないということになります。

勤続年数の平均は6.3年となっており、勤続5年未満の介護職員が49.5%を占めている状況です。
上で説明した事業所の裁量があるために、業界内での勤続年数が10年でも対象範囲とするなど、実際はもう少し多くなる可能性は考えられます。
しかし、いずれにせよ対象となる人々が多くはないというのは、大きな問題です。
また、新規に事業を立ち上げた事業者や、経営規模の小さい事業所などは、勤続年数の長い介護職員の数がいないために、加算の対象とならないケースも考えられます。
こうした事業所、あるいは法人間で差が生じることも問題のひとつです。
今後の介護施設に求められる体制の変化
介護士の引き抜きが激化して給与格差が生まれる可能性がある
この加算により今後起こる可能性が高い問題として、経験・技能のある介護職員という条件を満たせる人材について、引き抜き合戦が今以上に顕著になるということがあります。
この加算を受けることが、すなわち事業所の収入や、あるいは、そこで働く人々への待遇に直結することになるからです。
今回の加算を取得できない、あるいはそうした人材が少ないという事業所では、所属する職員への待遇改善を行うことが難しくなります。
あるいは、取得できたとしても経験・技能のある職員への待遇改善をするのが手一杯となってしまい、他の介護職員や、その他の職種への加算による待遇改善が見込めないという状況が考えられるためです。
こうした観点からも、今回の加算は豊富に人材を確保できる事業規模が大きい事業者、法人が有利な仕組みとなっています。
規模が大きく、潤沢に人材を確保できる事業所は、加算による待遇改善が進むことで、人気を集めることが可能となり、そうでない事業所は待遇を改善することができないことから不人気になる、という二極化が進むことが懸念されれるのです。
介護職員のキャリアパスを考え直すべき時期である
加算による格差が拡大し続けた場合に、経営規模の小さい事業所が、大きい事務所に淘汰されてしまう状況が考えられます。
昨年、社会保障審議会介護給付費分科会が発表した資料によれば、政府はこうした加算などの待遇改善によって、現在は資格などによって専門性に差がなく、役割分担が不明瞭になっている「まんじゅう型」と呼ばれる介護人材の状況の変革を標榜。
すそ野が広く、多くの人が参入したうえで、その中に専門性によってピラミッドのような形に階層分けされる「富士山型」の人材状況を目指しています。
目標を達成するためにも、事業所間の格差が広がらないような形で、今回のような加算をはじめ、介護業界で働く人材のキャリアパスをより明確にしていくことが、政府には求められています。

また、介護福祉士の待遇が改善される兆しを見せる一方で、今回の発表で条件付きながらも加算の対象となったケアマネージャーの人材確保は、いまだ大きな問題を抱えています。
2014年に受験資格が厳格化され、3年間の経過措置が終了し、厳格化が完全に適用された2018年には、それまで12~17万人の間を推移していた受験者数が、4万9,312人と激減。
今回のように、介護福祉士の待遇が改善される中で、ケアマネージャーの待遇がそのままという状況が続けば、今後もケアマネージャーの人材確保は困難なままです。
こうした部分にも、今後フォローをしていく必要があります。
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2020年9月7日 制定