介護問題の最大の山場は高齢化の後にやって来る
少子高齢化は「2040年」にピークを迎える
9月13日に第81回となる社会保障審議会・介護保険部会が開催。この審議会のなかでは、2年後の2021年度から2023年度における第8期介護保険事業計画についての議論が行われました。
現在の第7期における介護保険事業計画では、団塊の世代がすべて後期高齢者となった際に生じる、「2025年問題」への対応のため、介護サービスの充実を主な観点として検討が進められてきました。
しかし、厚生労働省の試算では、この2025年を境として2040年までに、高齢化の進行スピードは鈍化するものの、あわせて社会保障の支え手となる現役世代の人口も急激に減少するとされています。
そのため、支え手が少ないなかでいかに効率的な介護サービスを提供していくかという観点が今後の介護保険事業では必要となると想定されているのです。
そして、2040年以降は「高齢化の地域差」が深刻化すると言われており、今後対応が必要になると議論を呼んでいます。
内閣府が発表した「高齢社会白書」の2018年度版では、高齢者の人口自体は2025年には団塊の世代が75歳を超え後期高齢者となると3,657万人になり、国民の3人に1人が65歳以上になるとされています。
しかし、2042年の3,935万人をピークに減少に転じることもわかっています。

さらに現在すでに高齢化のピークが過ぎ、今後は介護ニーズが減少するとみられる地域と、今後も人口の流入によって高齢化がさらに進む地域。2つの地域への対応策が必要になってくるとされてるのです。
今後、より複雑化する超高齢化社会への対応が、介護現場の課題となっています。
「都市部の超高齢化」で東京は限界を迎える
この「高齢化の地域差」問題では、今後も介護ニーズが増え続ける地域としては、東京をはじめとした首都圏や、大阪、愛知などの都市部が挙げられます。
若者が都市部に移住してしまい、高齢者が残された地方において、少子高齢化が進んでいくという認識をお持ちの方も多いでしょう。
しかし、将来的な高齢化への対処の難しさという点では、実は都市部の方が深刻なのです。
この理由としては、高度経済成長期以降に若者人口が都市部に大きく流入した結果、高齢者が残った地方では、新たに高齢者となる層も少なくなっています。
2025年頃に高齢化のピークが過ぎ、介護需要が減り続ける地方がこうした「減少地域」にあたるでしょう。
それに対して、都市部では、高度経済成長期を境に上京した団塊の世代が後期高齢者になりつつあり、現在東京の高齢化率が23.3%、これに続いて大阪27.2%、愛知24.6%、神奈川24.8%となっています。
2045年には東京では30%を超え、大阪36.2%、愛知33.1%、神奈川35.2%と右肩上がりで高齢者の数が増え続ける見通しとなっています。
こうした膨大な高齢者の増加によって、介護などの福祉サービスや、医療サービスの需要が高まり続けています。一方で、子育て支援に回せる予算が減少しています。
全国的にみれば少なかった都市部の出生率はさらに低下し、現役世代も減少に転じつつあります。
さらに厚生労働省の試算では、2045年には東京でも3人に1人が高齢者となると発表されています。高齢化の深刻化が問題となっているのです。
老人ホームが不足する都市部と余る地方
都市部では整備コストが高く、介護施設の建設が困難
こうした都市部の高齢化に伴って問題になっているのは老人ホームなどの高齢者施設の不足です。
東京をはじめとした都市部の地価はほかに比べて高い傾向にあるため、現行の介護報酬制度では、土地や建物の購入を行う費用を捻出することが難しい状況にあるといわれています。
そのため、高齢者施設の需要は高まり続けているものの、その供給が追い付かない現状がすでに生まれているのです。
東京、神奈川、千葉、埼玉、山梨の1都4県で2015~17年度に整備を計画した特養のうち、完成は7割、特に東京都は計画の61%にとどまっています。
こうした影響から施設の建設は進まず、都内の特養待機者は2018年時点で約3万人にのぼっています。
政府もこうした状況への対策に乗り出し、民間マンションなど、一般向け物件の一部を介護保険施設として活用することを可能にするなどして対応しています。
くわえて、所有を原則としながらも、土地や建物の賃貸借契約による特養老人ホームの設置を認めるなどの取り組みを行っています。
しかし、これらの対策だけで解決するのは難しいのが現状です。
民間の有識者によって結成された日本創生会議は、2015年にこうした東京の高齢者施設の不足について声明を発表しました。
そのなかでは、東京をはじめとした1都3県で、2015年から2025年までの10年の間に、後期高齢者は175万人増加し572万人になると試算しています。

千葉県、埼玉県、神奈川県でも高齢化が顕著になり、介護について周辺地域の施設を頼ってきた現在の東京における「高齢者の受け皿」が崩壊する危険について警告しています。
高齢者施設の建設反対運動が都市部での整備の壁に
都市部における介護施設の問題としては、周辺住民による建設反対運動なども顕在化しつつあります。
最近では、終末期患者が集団生活を営むホスピスや認知症高齢者施設の建設に対して、地域住民の反対運動が行われたことが注目を集めました。
この際、地域住民は「建設断固反対」のチラシを配布し、家の壁に張り出すなどの抗議を行いましたが、こうした動きはにわかに全国に広がりを見せつつあります。
こうした反対運動は、海外では「Not in My Back Yard(我が家の裏ではやめろ)」という言葉の頭文字をとって、NIMBY(ニンビー)と呼ばれています。
もともと、こうしたNIMBYは、原子力発電所、あるいはごみ処理施設など、危険性が大きい施設について行われる運動でした。
しかし、現在は日本では高齢者施設なども、この対象となりつつあります。
建設費用などの問題をクリアし、建設や設置にこぎつけたものの、地域住民の反対に直面してしまった――。
そうしたケースは今後も増え続けると考えられるため、特に用地取得が難しい都市部においては、このNIMBYへの対策も大きな課題になると言えます。
首都圏の高齢化対策は間にあっていない
地方では介護施設も人材もいずれ「余る」事態に
また、都市部の問題だけではなく、将来的に介護需要が減っていく地方についても、早急な対応が必要であることは事実です。
今後地方では2025年頃に高齢化はピークを迎えるものの、その後減少することが見込まれる地域があることを冒頭では述べました。
このような地域では、現在増加する介護需要に対応するためにサービスの充実を図っていくと、減少に転じた後は施設や人材などが余ってしまう可能性が指摘されています。
そのため、社会保障審議会・介護保険部会のなかでは、こうした画一的なサービスの拡充を安易に行うべきではない、という慎重派の意見も聞かれました。
しかし、現状増え続けているニーズに対して、将来を見越してサービスの充実を見送り、現在それらを必要としている人々に我慢を強いることは本末転倒です。
2015~2017年度に全国で整備された特養の数は、計画(約6万床)の7割にあたる約4万5,000床にとどまっています。現在も37都道府県で1万5,000床の整備が進んでいないため不足状況が全国的に続いています。

将来的に、施設や人材の不足がより顕著となる都市部の介護サービスの問題に対し、地方の介護サービスは、こうした現状のニーズ増加と、将来のニーズ減少についてのバランスを取ることが求められています。
そのため、どうやってこの2つの問題をうまく解決できる提供体制を整えていく慎重な対応が求められているのです。
介護現場は、これまでに経験したことのない事態に直面
これらの問題の対策について、政府は『圏域』という構想を打ち出し、法制化に向けて動いています。
これは、介護や医療の需要増大や、インフラの老朽化などの問題に対して、複数の市町村が連携し、共同で対策を行うというものです。
しかし、7月に行われた地方制度調査会の専門小委員会では、地方6団体の代表から、この圏域構想について「地方行政の縮小だ」として反対意見が多くあがるなど、先行きの見通しは順調とは言えません。
こうしたなかで、現在の介護業界では、従来とは異なる視点や考え方が必要となりつつあります。
これまでのサービスの拡充をどのように行えばいいか、という観点だけではなく、現在の需要増加に対応し、同時に需要減にも対応するような柔軟な対策を考えなければいけないのです。
少子化問題では、子どもが少なくなって廃校となった学校の再利用について、特養老人ホームなどの老人福祉施設や公民館、児童福祉施設の転用が活発に行われてきました。
今後は不要となった施設の転用や、人材の配置の円滑化など、ニーズの減少に対応する体制を構築することも必要となります。
いま介護現場は、かつて経験したことのない「地方消滅と都市部の急速な高齢化」という2つの危機に直面しているのです。
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2020年9月7日 制定