厚労省、要介護認定調査員の資格要件を緩和すると発表
要介護認定調査、看護職や介護福祉士らも実施可能に
2月3日、厚生労働省は現行の制度ではケアマネージャーしかなれないとされている要介護認定の調査員について、可能な職種を追加することを都道府県に向けた通知の中で発表しました。
これは4月までに行われる介護保険法改正に合わせたもので、追加されるのは21種類の職業のほか、介護施設などにおいて、相談援助を行っている生活相談員など多くの職種です。
いずれも介護現場で5年以上の経験、あるいはすでに認定調査に1年以上携わった経験があることが条件です。
また、この緩和の対象となるのは、社会福祉協議会をはじめとした、市町村などの地方自治体に委託され、認定調査を行う指定事務受託法人に限定されています。
そのため、介護施設やケアマネージャーの事業所など指定事務受託法人以外では、従来と同じくケアマネージャーが行う必要があることに注意が必要です。
同省は通知の中で、今後もあくまでケアマネージャーが認定調査を行うことが基本であるとしつつも、新たに対象となる職種について、認定調査を補完的に可能とするものと位置付けています。
要介護認定調査は必要な介護サービスの度合いを判定する
「要介護認定調査」とは、申請者が要介護状態に該当するか、また必要とする介護サービスの度合いを調査するプロセスを指します。
申請には、申請書や介護保険証、主治医がいる場合には診察券などが必要。市区町村の介護保険課あるいは地域包括支援センターで申し込みが可能です。
申請から認定までには、一次判定と二次判定と呼ばれる2つのステップが存在しています。
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| 一次判定 | 市区町村より派遣された認定調査員 | 申請者の自宅などを訪問。心身の状態確認、認定調査票に基づき6つのカテゴリーで74項目の基本調査を実施。あわせて主治医の意見書などを基にコンピュータ判定も行う。 |
| 二次判定 | 保険や医療、福祉などの専門家で構成された介護認定審査会 | 一次検査の判定の結果や、主治医の意見書などを基に、要介護認定がふさわしいものかどうか検討する。 |
上記2つの判定結果を基に、要介護度が認定されるのです。図で整理すると以下の通りです。

このうち、今回の緩和で対象となったのは、一次判定を行うために申請者の自宅を訪問し、調査を行う判定員です。現行の制度ではケアマネージャーだけが対象でしたが、今後は条件付きで多くの職種で実施が可能になります。
緩和の背景はケアマネージャーの人手不足
全国の市町村で判定に遅れが出ている
今回の緩和が行われた背景には、認定のプロセスにかかわる人員の慢性的な不足があります。
厚生労働省が発表している「介護保険事業状況報告」によると、介護保険制度が開始した2000年4月には、要介護認定を受けた人は218万人でした。しかし、2018年にはその数が641万人と、およそ3倍まで増えています。

これはもちろん、高齢化社会が進んだことで、要介護認定を申請する人が多くなったことが原因のひとつ。その影響で調査員をはじめとする人手不足が深刻化しているのです。
介護保険法では、原則30日以内に要介護度の判定を行うとされています。しかし人手不足の結果、2015年には全国平均の認定の規範は39.4日と遅れが発生しています。
なかでも、大阪市では、2019年の4月から6月にかけて、人手不足を理由とした認定の遅れが発生。判定に要した時間が平均で53.5日と、規定の2倍に迫る時間がかかったことが問題となりました。
こうした事態が全国的に広がっている中で、認定を効率的にこなす施策を打ち出すことが政府に求められており、それに応える形で今回の緩和が発表されたと考えられます。
同じ理由で要介護認定の有効期間を延長している
今回の緩和と同じく、介護認定業務の円滑化を目的として打ち出されている施策が、要介護認定の有効期限について、現行の36ヵ月から48ヵ月に延長するというものです。
これは2019年11月、厚生労働省が開催した社会保障審議会介護保険部会の中で提案されたもので、更新の前後で要介護度の変更がないとみられる高齢者が対象となる予定です。
もともと、この有効期間は24ヵ月でしたが、2018年4月から36ヵ月に延長されています。また、要介護度の更新をする人で、一次判定でのコンピュータ判定において前回の認定と要介護度が変わらない人に関しては、審査を簡略化するなどの変更が行われています。
もちろん、要介護度に関しては、現状に即した適切なサービスを提供するためにも、判定のスパンが短い方が望ましいことは言うまでもありません。
しかし、厚生労働省は上記の会合の中で、以下のデータに注目。
直前の認定更新で、「要介護度が変わらなかった人」が「36ヵ月後に要介護度が変わった割合」は33.2%。対して、「36ヵ月後に要介護度が変わらなかった人」で「48ヵ月後に要介護度が変わった割合」も33.4%とほぼ同じです。
これを根拠として、厚労省は「48ヵ月まで延長することが効率的である」と主張しているのです。
現時点では、この延長が実施される正確な日時は決まっていませんが、2021年度に実施することを念頭にしていると担当者が言及するなど、早期の実現に向けて同省が動いていることは確かです。
専門外の職種に正確な判定ができない可能性は?
約7割の利用者が判定結果に不満を抱いている
一方で、「要介護認定調査における職種の緩和に関しては、本当に適切なのか」という懸念の声も出ています。
そもそも、この認定調査は、介護サービスを受ける人が、その身体状況に合ったサービスを受けるために必要な調査です。この際に認定される要介護度によっては受けられるサービスや、介護保険の給付額が変わってきます。
特に、比較的安価に入居できる介護施設として人気の集中する特別養護老人ホームの入居には、原則的に要介護度3以上であることが必要となることから、要介護度2から3の差は大きいという認識が一般的です。
介護現場での経験者であることが条件とはいえ、ケアマネージャー以外の業種が要介護認定調査を担うことには、慎重な議論が必要です。
ケアマネージャーの支援サイトであるケアマネジメント・オンラインの調査によれば、要介護の判定について、「ケアマネージャー側が妥当だと思ったものでも、利用者本人や家族が不満を訴えた」というケースは73.3%もありました。
そのうち、47.0%で「区分変更を申請する」という対応を行っている、つまり要介護度の判定の見直しを行っています。

専門家であるケアマネージャーが認定を行ってもこのような事態が高い確率で起こっていることを考えると、他職種が判定を行った場合、同様のケースがさらに増えると予想されます。
その場合、市区町村などの負担が増し、申請にかかる日数が現在よりも増えてしまう…という本末転倒な事態が起こる可能性も考えられます。
判定前に心がけておくべき3つのこと
要介護度の判断が適切になされ、調査者と利用者の双方が納得できるような判定がなされるためには、利用者側の協力も必要となります。
特に、利用者側が気を付けるべきものとして挙げられるのは、主治医の意見書です。
正確性を高めるためにも、普段から利用者の状態をしっかりと把握してくれる「かかりつけ医」を決めておき、意見書を書いてもらうことが重要です。
また、訪問調査の際に、利用者本人が緊張をしてしまう、良く見せようとするなどの行為を行うことで、想定よりも低い判定がなされてしまうケースも。そのため、家族をはじめ、日常的な利用者本人の状況を知る人が、調査に同席し、それを正確に伝えましょう。
先述した通り、訪問調査では身体機能や生活機能、認知機能などの6つのカテゴリーで74項目にわたる調査が行われます。調査票の内容を事前に確認して円滑に答えられるようにしておくようにしましょう。
介護保険制度において 重要な役割を担う要介護度を巡り、大きな変化が起きようとしています。国が想定した通りに正確さを保ちながらも、より効率的な判定が可能となるのかどうか、注目が集まっています。
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2020年9月7日 制定