介護職はハラスメントに遭いやすい
精神疾患による労災申請が過去最多の2,060件に
6月26日、厚生労働省は、2019年度における過労死をはじめとした労災補償状況を公表しました。
この中では、請求件数が2,996件となり、前年度に比べて299件増加したことや、支給決定件数が725件で、こちらも前年度に比べて22件増加したことが判明しています。
そのうち、労働によってうつ病などの⼼の病になったという精神障害に関する労災の請求件数は2,060件、⽀給決定件数は509件となっており、これは統計が始まった1983年以来、最多となる数です。
また未遂も含めた自殺の件数は202件で、こちらも前年度に比べて2件増加しています。
業種別で見ると、最も多いのは「医療・福祉」の426件となっており、続いて「製造業」の352件、「卸売業・小売業」の279件と、医療・福祉分野が最も多いことが発覚。

より細かい業種別の分類では、「社会保険・社会福祉・介護事業」が256件の請求件数、48件の支給決定件数となり、いずれも最多となりました。「医療業」はそれぞれ169件、30件となっており、ともに第2位です。
このことから、医療・福祉分野で働く人々が、労災に直面する可能性が他業種に比べてかなり高いという現状が露わになりました。
ハラスメントを受けたことがある介護職員が4~7割
以前より、介護業界では利用者によるハラスメントが問題となっていました。
2019年3月、三菱総合研究所が公表した『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』という資料のデータでも、その実態が如実に記されています。
この中では、「叩かれる、物を投げつけられる、唾を吐くなど身体的暴力や、威圧的な態度を取る、怒鳴る、嫌がらせなど精神的暴力、卑猥な言動や抱きしめるなどのセクシュアルハラスメント」を介護現場におけるハラスメントと定義。
介護施設や事業所で働くスタッフのうち、これらのハラスメントを利用者本人、あるいは家族などから受けた経験のある人が、利用者からが業種によって差はあるものの4割から7割、家族などからは1割から3割と、高い割合でいることが判明しています。
ハラスメントの種類別でみると、利用者からのハラスメントでは、訪問介護や訪問介護、訪問リハビリテーション、通所介護、居宅介護支援などの業種では、精神的暴力が最も多く、特定施設入居者生活介護や認知症対応型通所介護、介護老人福祉施設、小規模多機能型居宅介護、看護小規模多機能型居宅介護では身体的暴力が最多となっています。
これらをまとめると、訪問系のサービスでは精神的暴力の割合が高く、入所・入居施設では身体的暴力の割合が高くなる傾向があります。後者については精神的暴力の割合も同様に高く、スタッフがよりハラスメントにさらされやすい状況となっているようです。
ハラスメントは職員の離職につながる
介護職の退職理由として最も多いのが「職場の人間関係」
こうしたハラスメントには、介護現場に重大な問題をもたらします。
上記の資料によると、ハラスメントを受けたことを原因として、仕事を辞めたいと思ったことのある職員は全業種およそ2割から4割。ハラスメントによってけがや病気になったことがあるという職員は1割から2割となっています。
また、公益財団法人介護労働安定センターが公表している『介護労働実態調査』の2018年度版では、介護業界の離職率は15.4%と、全産業の離職率である14.6%に比べて高い傾向にあることが判明。
同様の離職理由についてのアンケート(複数回答)によると、退職理由で最も多かったのは「職場での人間関係に問題があったため」の22.7%です。介護職以外ではこの回答を行った割合は14.6%で、それと比較すると非常に高い割合です。
この人間関係の中には、スタッフ同士の関係もあるものの、利用者や家族との関係も含まれており、ハラスメントが介護業界の離職率を高める原因のひとつとなっているのです。
2~4割の人はハラスメントを受けても人に相談していない
ハラスメントに対する業界の対応が遅れていることも、介護業界の大きな課題となっています。
先述の『介護現場におけるハラスメント対策マニュアル』によると、利用者や家族などから職員へのハラスメントが行われたことの把握について、業種によって差があるものの、事業者の3割から6割が「ハラスメントは発生していない」と回答。
「ハラスメントの発生を把握している」とした事業所も3割から5割程度あるものの、「ハラスメントの有無を把握できていない」という回答も1割程度あったことが判明しています。
また、ハラスメントを受けた職員が「ハラスメントを受けた際には些細な内容でも相談した」と答えたのは2割から5割となっています。
一方で、「ハラスメントを受けた際に相談をしなかった」との回答も2割から4割程度と多数ありました。
職員と事業所の間で、ハラスメントの実態が正確に伝わっていないのが現状です。
こうした状況を反映してか、利用者・家族からハラスメントを受けた際に必要な対応に関するアンケートでは、「事業所内での情報共有」「相談しやすい組織体制の整備」と答えた職員がいずれも5割から6割超と、過半数となっています。

法改正など職員を守る動きが活発化
精神疾患の労災認定の基準が改正へ
国は現在、ハラスメントへの対応策を強めています。
5月29日には、厚生労働省が「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正。
都道府県の労働局長に通達したことを発表しました。
この改正は労災認定について評価基準となる「心理的負荷評価表」に、パワーハラスメントについて追加し、表内の「具体的出来事」の項目においても「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」という項目を追加したものとなります。
これは、同省の内部部局である労働基準局が実施した検討会である「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」が出した報告書を受けてのものです。
報告書の中では、6月1日から施行されたパワハラ防止対策関連法で、職場におけるパワーハラスメントの定義が法律で規定されたことから、心理的負荷評価表もそれに対応すべきという見解が示されていました。
このパワハラ防止対策関連法では、労働施策総合推進法や労働者派遣法の改正でパワーハラスメントの防止措置について明文化されたほか、女性活躍推進法や男女雇用機会均等法、育児・介護休業法の改正でセクシュアルハラスメントや、マタニティハラスメントなどの対策も強化。
事業者や上司だけではなく、同僚についても言動に注意することが労働者の責務であるとされるなど、各方面のハラスメントへ対応する改正となっています。
厚労省は対策のための動画を配信
また、介護業界で起こる利用者や家族からのハラスメントへの対策も、厚労省は打ち出しています。
同省は5月13日に動画投稿サイトのYouTubeに、「介護現場におけるハラスメントに関する職員研修」という動画を投稿。翌実14日に発出した介護保険最新情報のVol.833で、周知を行いました。
この動画の中では、組織的、総合的なハラスメント対策や適切な初期対応、要因の分析などが重要であるとしたほか、職員に対してハラスメント対策としてできることを列挙しています。

「利用者に提供できるサービスの範囲を理解する」「適切なケアを行うために、利用者の諸情報を知る」など、13個のチェック項目を紹介しています。
以前より深刻な人手不足が叫ばれている介護業界ですが、こうしたハラスメントが起きやすいという特徴も、その原因のひとつとなっていることは確かです。それを取り除くため、ハラスメントに対する明確な対応策を取ることが求められています。
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2020年9月7日 制定