定員のルールを緩和した理由
緩和されたルールのポイント
小規模多機能居宅介護(小多機)の人員基準が、2021年8月から緩和されます。2020年から議論されており、2021年4月の介護報酬改定で盛り込まれることが定められていました。
まず小多機とは、「訪問(ホームヘルプサービス)」「通所(デイサービス)」「宿泊(ショートステイ)」を一つの事業所で一体的に提供する施設です。
小多機の人員基準はこれまで、必ず適合しなければならない全国一律で「従うべき基準」と位置付けられてきました。今回施行された改定ルールでは、この基準を「標準とすべき基準」へと変更。各市町村などの実状に合わせて人員を定めることができるようになりました。
小多機の利用は定額制の登録制度となっており、定員の上限が設けられています。
具体的には登録定員「29人(25人)」、通いの定員「登録定員の2分の1から15人まで」、泊まりの定員「通いの定員の3分の1から9人まで」などと厳格に定められています。
この人員基準を市町村で議論し、変更することが可能になったのです。
その際、各市町村では「合理的な理由がある範囲内」を議論して、条例を定める必要があります。
ただし、決して自由に上限を変更できるわけではなく、あくまでこれまでの「従うべき基準」をベースとしたものでなければなりません。
いずれにしても、柔軟に対応することが可能になりました。
緩和の背景にあるのは経営の厳しさ
人員基準が見直された背景には、この基準に対する不満の声がありました。過疎地などの自治体の関係者などからは「利便性の観点からより柔軟な運用を可能としてほしい」という声が挙がっていたのです。
根底にあるのは、小多機の厳しい経営実態です。
福祉医療機構(WAM)が調査した『2019年度小規模多機能型居宅介護事業の経営状況について』によると、経営が赤字の割合は全体で39.7%。
定員数別にみると、25人定員施設で45.7%、29人定員施設で33.4%となっています。

同調査では、「ニーズがあるのにかかわらず、これまでのルールでは対応できなかったことが大きい」と指摘しています。
2021年の介護報酬改定で変更になったポイント
要介護度1・2などの報酬が低かった
経営が安定しない理由は、定員数だけでなく、要介護度の軽い利用者の算定評価が低かったことも原因だとされています。
2020年、全国小規模多機能型居宅介護事業者連絡会は、社会保障審議会介護給付費分科会で『在宅の限界点を高める小規模多機能型居宅介護』という要望書を提出。その中で指摘しているのが、要介護度の低い利用者に対する報酬の評価が低い点です。
小多機の介護報酬の評価は、要介護度の高低で大きな差が生じていました。上記の要望書によると、要介護度1の利用者に対する報酬が月あたり10万3,200円なのに対し、要介護度3の利用者は22万620円。その差は11万7,420円にもなります。
ところが、小多機の新規利用者は要介護度2以下が68.8%なのに対し、契約終了となった利用者は要介護度3以上が55.8%を占めています。

そのため、要介護度3の利用者が契約を終了し、要介護度1の利用者が新規に契約すると、年間約140万円の減収になります。利用者1人の変化で事業所の収入が大きく左右されるのです。
こうした要望を受けて、小多機の基本報酬が底上げされました。この変更が経営にどのような影響を与えるかはまだわかりませんが、多少なりとも収入を下支えすることにはつながりそうです。
緊急時のショートステイを要件緩和
また、小多機の事業者を悩ませていたのは、緊急時のショートステイの対応でした。これまで登録者の定員が上限に達している場合、登録者以外の人は宿泊しても「小規模多機能型居宅介護の短期利用居宅介護費」という加算が算定されることはありませんでした。
そこで、今回の改定では、「登録者の数が登録定員未満であること」という項目が削除されました。宿泊室に空きさえあれば、登録者以外の人が宿泊しても加算が算定されることになったのです。
これにより、小多機では柔軟にショートステイの利用者を受け入れることが可能になりました。このように、小多機の経営を圧迫していた課題は、今回の改定で少しずつ改善されています。
今後の課題は地域差の解消
小多機は過疎地域でこそ活躍する施設
冒頭で説明の通り、小多機は「訪問」「通所」「宿泊」を一体的に提供する施設です。
そのため、過疎地域などでは拠点的な介護施設になることが期待されています。
かねてより「一定の人口規模に満たない地域では、介護施設の運営が厳しい」と専門家や研究者によって指摘されてきました。
こうした声を受けて、2006年に地域密着型の介護サービス施設として誕生したのが小多機だったのです。
過疎地域では、高齢者の移動手段が限られており、通所介護が困難になることが少なくありません。
そこで注目されたのが、訪問サービスです。
また、宿泊機能も兼ね備えているため、離島などで積極的に導入を試みた事例もあります。
中には、介護だけでなく地域の高齢者の交流の場として活用されていることもあります。
過疎地域では、小多機が地域包括ケアシステムの中心的役割を担うこともあるのです。
小多機に求められる訪問・宿泊サービスの充実
しかし、過疎地域では後期高齢者や高齢者単独世帯の介護サービスの利用率が低いことが指摘されています。
厚生統計協会が発行する「厚生の指標」に掲載された『過疎地域に居住する高齢者の介護サービス利用に関する分析』によると、高齢者の介護サービス利用状況は過疎地域であまり進んでいないことが報告されています。
過疎地域では「週1日未満」が8.7%で、「週4日以上」では25.2%。それに対し、過疎地域以外では「週1日未満」が6.3%で、「週4日以上」が30.8%となっています。

過疎地域で介護サービス利用が進まない理由として挙げられているのは、「子どもとの同居率が高いこと」と「世帯収入が低い世帯が多いこと」です。
しかし実態は、子どもとの同居率が高い反面、同居でない世帯の場合は子どもが近隣や同一市区町村内にいない割合も高いそうです。
そのため、日常的な支援が受けにくい高齢者が多いのが現状です。
そこで、重要になるのは小多機の「訪問」や「宿泊」といったサービスです。
今回の改定でも、上記のショートステイに加えて、離島や中山間地域、過疎地域での訪問サービスを強化しています。
例えば、離島や中山間地域などにおけるサービスの充実を目的に、「特別地域加算」や「中山間地域等における小規模事業所加算」などの算定範囲を広げています。
また、過疎地域の小多機では、市町村が認めた場合、登録定員を超過した際の報酬減算を行わないことになりました。こうした改定は小多機が持つ本来の機能や役割を果たすために見直された点です。
今回の改定で多くの小多機が経営改善を果たし、サービスの向上を図れるかどうか、今後も見守っていくことが必要でしょう。
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2020年9月7日 制定