年々ひっ迫する救急医療の課題
コロナ禍で浮き彫りになった「たらい回し」
新型コロナの感染拡大は、日本社会のさまざまな問題を浮き彫りにさせています。
そのうちの一つが、救急車の「たらい回し」問題です。
2021年の夏、新型コロナに感染していた妊娠8ヵ月の女性が自宅療養中に出産するも、受け入れ病院が見つからず新生児が命を落としてしまうという痛ましいニュースが報じられました。
受け入れ病院が見つからない事案は、統計上では「救急搬送困難事案」と呼ばれ、救急隊による「医療機関への受入れ照会回数4回以上」かつ「現場滞在時間30分以上」の事案を指します。
この救急搬送困難事案は、2021年8月に激増しました。総務省消防庁の発表によると、8月第2週目にピークとなる3,361件を記録。コロナ以前の2019年と比べると、195%の増加となりました。

こうした事案が起こる背景には、新型コロナ患者を受け入れる医療機関の病床が埋まり、他の患者を受け入れる態勢が整っていないためと指摘されています。
救急医療の現状と課題
日本の救急医療については、コロナ禍以前から問題点が指摘されていました。
最大の懸念は、救急車の出動回数の増加です。
2020年に公表された『救急救助の現況(救急編)』によれば、救急車の出動件数は、2009年に512万5,936件でしたが、2019年には664万2,772件。
10年ほどで150万件以上も増加しています。
そのうち、最も多い事故種別は「急病」で65.3%。
次いで一般負傷が15.3%、交通事故が6.5%と続きます。
1989年当時は急病が48.8%、交通事故が24.3%を占めていましたが、交通事故が減少している一方で、急病が大きく増加していることがわかります。
また、消防署に電話が入ってから医師に引き継ぐまでの平均所要時間を見ると、全体での平均が39.5分なのに対し、急病で搬送されたケースでは平均40.3分とわずかな差ですが相対的に時間がかかる傾向があります。
超高齢社会に求められる救急体制
急病で救急車を呼ぶ6割が高齢者
急病での救急出動が増加している背景には、高齢化の影響が指摘されています。急病で搬送されている人を年齢区分別に見ると、高齢者が62.1%を占めています。
高齢者の救急搬送では、さまざまな課題が挙げられています。東京都がまとめた『地域包括ケアシステムにおける迅速・適切な救急医療について』によれば、主に次の3つの課題が挙げられています。
- 高齢者の単身世帯や夫婦世帯などでは、具合が悪くなったときに、すぐに受診すべきか迷うことや、どこの医療機関に行くべきかわからないなど対応に困るときがある
- 救急搬送が必要な場合であっても、高齢者から救急隊への状況伝達に時間を要することがある
- 在宅療養または通院している高齢者が、あらかじめ予測された症状の悪化により入院が必要になった場合には、周囲の支援を得られずに自力で医療機関を受診できないことがある
こうした課題を解決することで、搬送までの時間の短縮や適切な医療機関へのスムーズな搬送につながると考えられています。救急出動の多くを占める高齢者の搬送への対応改善が求められているのです。
高齢者の救急医療に対応できる制度を
救急制度による高齢者への対応が遅れている背景には、これまでの救急医療体制の移り変わりが大きく関係しています。
日本の救急医療は、1964年に厚生省(現・厚生労働省)から「救急病院等を定める省令」が出されたことから始まりました。当時は、交通事故や労働災害の増加が社会問題化していたため、こうした事案に対処する負傷者が主な対象となっていました。
この省令によって定められたのが救急医療施設の認定方法です。救急医療施設は、「救急告示医療機関」と呼ばれ、当初は民間の外科病院や診療所が中心でした。大学病院や国公立病院は消極的で、現在でも救急医療の大半は民間が占めています。
1970年代に入ると、核家族化が進んで内科や小児科の救急医療のニーズが高まりました。しかし、「救急告示医療機関」は外科中心だったため、この頃からすでに「たらい回し」となる事案が増加していたのです。
そこで、1977年に救急医療体制が再整備されました。
救急医療機関を「初期救急医療」「二次救急医療」「三次救急医療」の階層に分け、傷病者の重症度に応じて、「初期」から「三次」へと順に高度医療機関へと流れていく仕組みになりました。
これは現在のシステムと大きく変わりません。
「初期救急医療」は、各自治体ごとに指定する「在宅当番医制」と自治体による「休日夜間急患センター」があります。
いずれも軽症の患者を診察する機関です。
最も数が多いのは「二次救急医療」で、医療圏内の複数の病院が当番制によって休日および夜間に受け入れる「病院群輪番制病院」や同じ医療圏内の医師が一部開放された病院で救急治療に当たる「共同利用型病院」の2種類があります。
高度な救急医療が受けられるのが「三次医療機関」で、「救命救急センター」などが当たります。
こうした制度において課題とされているのは、それぞれの救急医療機関別での機能や役割の分化と連携強化です。
「三次医療機関」についてはいち早く機能の強化を図る目的で「救命救急センターの充実段階評価」を実施していますが、最も数が多い「二次医療機関」で、こうした評価がされていないため、他の機関との連携や質について、実態が見えづらくなっています。
安定した救急医療体制の構築に向けて
都市部で民間企業との連携が進む
高齢化に対応した制度改定に向けて、国も議論を重ねていますが、民間でも救急医療へのアプローチが進んでいます。
例えば、東京都や大阪府などでは、新型コロナに感染した自宅療養者に対して、民間企業と連携して、24時間体制の電話・オンライン診療・往診などのサポートを実施しています。
救急医療を直接実施できるわけではありませんが、民間を通じて医師と治療を求めている人をつなげて、迅速で適切な治療につなげているそうです。
現在はコロナ禍による一時的な連携ではありますが、平時でも民間企業と連携した救急医療体制を模索してもいいのではないでしょうか。
DX推進などで効率化
また、安定した救急医療体制を築くために障壁となっているのが、救急医療医の過重労働です。「年間で時間外勤務時間が1,860時間を超える」医師のいる病院の割合は「救命救急機能を有する病院」が84%となっています。
こうした医師の負担を軽減させることも重要な課題です。そのためには連絡や記録の管理などといった業務の効率化が必要です。そこで、注目されるのがICTなどの活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)です。
現在、スタートアップ企業などが開発したシステムを導入する病院も増加しており、救急医療や急性期医療に特化したシステムも誕生しています。
例えば、診察内容をフリーテキストで入力すると、AIが解析して病名などをテキスト化してくれる電子カルテなどもあります。
高齢化の進展によって救急医療制度の改正が必要な時期を迎えている今、民間との連携も視野に、新たな時代に合わせたシステムなども考えていく必要があるのではないでしょうか。
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2020年9月7日 制定